*奈かご
光を消し去る機会は、幾らでもあった。
たかが人間の小娘の命ひとつ、いつでも簡単に手中にできようと高を括っていた。
だが、その光はか弱い見かけによらず、この世の何よりも手強かった。
吹き消しても吹き消してもよみがえる。よみがえるたびにいっそう輝きを増す。ならば深い闇の中に隠してしまえと、幾たびも手中におさめたが、結局は容易に闇をすり抜けていくのだ。──かごめという名の、あの娘は。
「四魂のかけらを集めて、あんたは何がしたいの?」
かごめは、的に向かう矢のようにひたむきな目で彼を見ていた。
奈落の結界という閉鎖的な環境にたった一人閉じ込められながら、その立ち姿は微塵も恐れを感じさせない。
かの巫女に遠く及ばぬ存在と見くびっていたが、近頃、奈落はそうした考えを改めている。
「今よりももっと強い体をつくって、私たちに立ち向かって、その後は?」
答えは、ない。彼はただ、貴公子然とした白面につかみどころのない微笑を浮かべるばかり。
いつかその清らかなひとみに真実を見透かされることを予期していた。
幾度もの変化をくりかえし、鋼や金剛よりも頑強な肉体を創り上げながら、その鎧が守るものは「何もない」──という空虚な真実を。
やはりこの娘は、宿敵と呼ぶにふさわしい。
「奈落。四魂の玉を使って、あんたが本当にほしいものは何?」
彼の薄い唇が、称賛をこらえ、嘲笑するようにゆがむ。
「それを知ってどうする。かごめ、おまえにわしを止めることはできぬ」
「やってみなければ、わからないわ」
恐れを知らぬその目から、希望が尽きることはない。自分は闇を打ち砕く光であるという、絶対的な自負がその根底に感じられる。
──今、最後の願いを思いついた。
万が一、この奈落が、光に負けたあかつきには。
「私には、犬夜叉がいるもの」
今度こそ、永遠にこの娘を閉じ込める。
四魂の玉という深い闇の底。
竜鱗や金剛を帯びた刀はおろか、姿形も見えず、声さえも届かぬ場所へと道連れにする。
あの半妖には決して渡さない。
何一つとして、渡しはしない。
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(2017.11.12)
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