*REIGN/クイーン・メアリー ナルロラ
弓の腕が上がったと、彼がこれ見よがしに称賛を浴びせた。
自分のつきっきりの指南の賜物だとでも言いたいのだろう。
サロンに集っていた貴族たちのあいだで、意味ありげな目配せと、かすかな囁き声が交わされる。
「心にもないお世辞は結構です。ナルシス卿」
長椅子から腰を上げたローラが、毅然と言い放つ。彼女と向かい合って何やら熱心に語っていたどこぞの貴族子弟は、卿の出現に怖気づいたのか、借りてきた猫のように黙り込んで紅茶を啜っている。
その小心さをあざ笑いながら、ナルシスは優雅に腰を折った。
「レディ・ローラ。よろしければ、少々お時間を頂けますか?」
王妃の女官は、憮然とした面持ちで差し出された彼の手を取った。
回廊の曲がり角に差し掛かるや、ナルシスは石壁に手をついて彼女の逃げ場を断つ。だがこれしきのことで彼女は怖気づいたりしない。むしろ挑むような眼で彼を見上げ、サロンでの交流を邪魔されたことを声高に抗議してくる。
「ああでもしなければ、よからぬ虫がつく」
ローラの唇から溜息がこぼれた。
「ナルシス卿」
「その呼び方は受け付けない」
「……ステファン」
心底不本意そうではあるものの、彼の優越感は十分に満たされた。たった今自分を呼んだその唇を、親指でゆっくりとなぞる。本当は強引に奪ってしまいたいところだが、また頬を張られてはますます歯止めが利かなくなりそうだ。
「あの若者をファーストネームで呼ぶことは、お勧めしない」
「──なぜ?」
ナルシスの口角が持ち上がる。
「私が君に対して寛大であり続けるためだ。ローラ」
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(2017.11.12)
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