たまさかの縁 ─死─




 物心ついた頃から、少年はつねに「死」を傍に感じてきた。
 それは宿命であったに違いない。不当に人間の寿命を狩ることを生業とする、死神集団の頭目を父にもつ者にとっては。
 母はおらず、魔の巣窟のような居館で彼は育てられた。幼い頃から感情表現の乏しい子だったという。周囲は少年が社長の息子だからと、まるで王族か何かのようにちやほやしたが、彼は自分を取り巻く誰にも懐くことがなかった。
 実の父親にさえも。
「──何を見ているの?」
 夕暮れ時の公園の入口。たった一人ブランコで遊ぶ小さな子供をじっと眺めていると、いつもの声がした。視線を横に流せば、見慣れた青い制服姿がそこにある。大きな瞳で食い入るように彼の横顔を見つめている。
「まさか、今日はあの子をねらっているの?」
「さあ、どうかな……」
「やめて」
 彼女の声には隠しようのない緊張がにじんでいる。少年の唇が半月の形にゆがむ。
「なら、おまえが身代わりになるか?真宮桜」
「……それで、あなたが満足するなら」
 ふ、と鼻から笑いがこぼれる。
「心にもないことを言うな」
 桜が何か言い返してくる前に、りんねはその手首をひったくるようにして掴んだ。彼女が眉をひそめて振り解こうとするが、離してはやらない。もう、これ見よがしにブランコを漕いでいる子供への興味は微塵も残っていなかった。「お気に入り」が目の前に現れたからだ。
「私を連れて行くの?」
 りんねはその声を甘美だと思った。確かに、このまま向こうへ連れて行けるのなら、ずっと傍に置いておけるのなら、もう二度と退屈することはないのかもしれない。
 ──この人間の、いったいどこにこれほど関心をそそられるのか。
 純粋な興味が、いつもりんねの胸の内にあった。人間なら今まで嫌というほど見てきたはずだが、これほど長く関心が続いたためしはなかった。せいぜい魂を狩り、用済みとなるまでの間だけだ。ましてや人間どころか、同族の死神にさえなれ合いを求めたことのない彼である。自分から誰かに近づこうとすることは、思えばこれが初めてかもしれない。
「おまえを、狩りはしない」
 人間の瞳は胡乱げに彼を見つめている。短命な花の名をもつか弱い存在に過ぎないが──案外、その芯は強いらしい。






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