赤い糸

*剣薫

 縁側にあたる日差しの心地良い、冬にしては暖かな昼下がりだった。
 裁縫箱をかたわらに置いて、繕い物に勤しむ薫の柔らかな膝に、頭をあずけてみたところまでは覚えている。
「あんまり見られると、緊張して手元が狂うわ」
 とか、
「剣心って、時々大きな猫みたいね」
 などと言って、はにかんだり笑ってみせたりする新妻の顔を夢見心地で見上げながら、ついうとうとと微睡んでしまったらしい。
 幸せ惚けとは、まさにこのことである。
「──起きたの?剣心」
 ぼんやりと目を覚ますと、薫が上から覗き込んでいた。それほど眠ってはいないのだろうが、彼女の膝で安眠を得たという満足感に、心がみたされる。
「ん?」
 寝ぼけ眼を擦ろうとして、剣心はふと小指が何かに引っ張られていることに気付く。しっかりと目を見開いてあらためると、そこには赤い糸が結びつけられていた。
「薫殿、これは?」
「さあ、なんでしょう」
 彼女は謎かけをするように、得意げに口角を持ち上げて、自分の手を差し出してみせた。
 その小指には、彼の小指から垂れる糸の反対側が結ばれている。
「……赤い糸、でござるか?」
「そう。赤い糸」
 ああ、と思い至った剣心は破顔する。
 自分でしておきながら急に恥ずかしくなったらしい薫が、馬鹿みたいよね、と顔を紅潮させて糸を解こうとすると、
「いや、もう少しこのままで」
 赤い糸で繋がれたその手をとり、指を絡めてしっかりと握り締めた。



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(2017.02.02)
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