「秋の雲って、ちょっとハクに似てるみたい」
「私に?」
合点がいかず、ハクは小首を傾げる。
トンネルをくぐり、千尋と再会を果たして早幾年。
季節によって移ろう空模様をのんびりと観察しながら、こうして二人手を繋いで夕飯の買い物に出かけることも、彼らにとってはすっかり日常茶飯事となっている。
「ほら、ああいう白くてきらきらしてる雲って、龍の鱗みたいじゃない?」
子どものように目を輝かせて千尋が指差す先、秋の天高く澄んだ青空には、横広がりの鰯雲が悠々と浮かんでいる。
ハクはにっこりと笑いながら、愛しい妻の顔を覗き込んだ。
「千尋は可愛いね。あの雲が、私に見えるの?」
「ハクにはそう見えない?」
「考えもしなかったよ。けれど、これからはよく探してみることにしよう」
上機嫌に、上半身をかがめて彼女の額に唇を押し当てる。
驚いた千尋の手から、買い物袋がぽとりと落ちた。
ふっくらとした鬼灯のように色づく、彼女の頬。
ハクは、こういう悪戯が楽しくて仕方がない。
「ハク!そういうことは、外ではしないでって言ってるのに──」
「ごめん、ごめん」
ハクは千尋の袋を拾い上げて、悪びれもなくその耳に唇を寄せた。
「鰯雲を見るたびに、きっと千尋は私のことを考えてくれているんだろうな──、そう思うと、嬉しくてね」
(Thanks for your claps!)
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