in his context
「六道くんって、何でもできるんですね」
林檎の皮を剥く手を止めず、りんねはちらりと彼女の顔を一瞥した。
桜はじっと彼の手元を見ているが、話しかけた相手は祖母だったようだ。
「あら、そうかしら?」
「手慣れてる感じがします。きっと料理上手なんですね、六道くんは」
「そうねえ。そこそこじゃないかしら?この子、小さい頃からよく台所仕事、手伝ってくれていたから」
ぽんぽん、と上機嫌な祖母に頭を撫でられても、りんねは表情を変えずに黙々と頂き物の林檎を剥き続けている。
そうされて誇らしく思うのは小学生くらいのものだ。
「男の子だって、りんごの皮くらい剥けなくちゃ、お婿さんの貰い手がないでしょう?きっと。そう思って、一通りのことは自分でできるように仕込んだのよねえ」
すごいですね、と桜は感心したように頷いた。
きれいに剥かれた蜜入り林檎が均等に切られていく。
「六道くんのお嫁さんになる人は、大変ですね」
「──そう?」
「だって、何でもできる人じゃないと、六道くんに釣り合わないじゃないですか?料理も上手じゃないといけないし」
大変そうですよね、と他人事のようにもらす桜。
魂子がくすくすと笑いながら、孫の顔を覗き見る。
聞き耳をたてることに集中するあまり、包丁を握るその手が止まっていたのだった。
「真宮桜」
魂子が台所を出ていくと、黙っていたりんねが突然、彼女を呼んだ。
何、ときけば、
「──真宮桜の料理は、うまいと思う」
大真面目な顔をして脈絡のないことを言うので、桜はどう答えたらいいのか考えあぐねてしまう。
「……ありがとう?」
私、今日は料理してないんだけどな。
そんなことを思う桜の隣で、彼はどこか満たされないような表情で、林檎を一切れ口にしていた。
2016.10.07back to list