とじる




 今の時代、人間たちはいつどこにいても手軽に写真を撮ることができるらしい。
 魂子がもらった写真も特別な機会に記念撮影したものではないようだ。何気ない高校生の日常を写した代物で、仲のいい同級生たちとくっついて、なにやら隣を気にしながらぎこちなくピースを作る孫の姿がある。
「昨日、みんなで携帯で撮って、コンビニで印刷したんです」
「そんなこともできるの。便利ねえ」
 写真の中でりんねの隣には桜が写っている。緊張した様子なのは桜との距離が近いせいだろう。年頃らしい孫の姿が可愛くて、魂子の口元は自然とゆるんだ。
「一昔前は、写真なんて特別な時にしか撮らなかったものよ。随分と便利な世の中になったのね」
「でも、おばあちゃんは昔からまめにアルバムを作っていただろう?」
 孫の何気ない一言に、お決まりのこめかみ攻撃。
 痛みにうなるりんねの隣で桜が苦笑しながら湯呑みを置いた。
「前に六道くんとおとうさんのアルバムを見せてもらいました。魂子さんは写真がお好きなんですか?」
「そうねえ、写真は好きだわ。色褪せてもずっと残るじゃない?」
 魂子は孫の写真を大事そうに見つめている。
「ありがとう、桜ちゃん。私はもう現世で暮らすことはできないから、りんねのアルバムの写真を増やせずにいたのよ」
 何気なく言ったつもりだったが、顔を上げると桜が思いのほか真剣な目をして彼女を見ていた。
 心を見透かすかのような眼差し。
「魂子さん。これからは、私が時々六道くんの写真を撮りますね。魂子さんのアルバムに写真が増えるように」
 りんねは羊羹を食べながら面妖な顔をする。
 おかしくなって魂子は目を細めた。
 血を分けた孫よりも、赤の他人であるはずのこの少女のほうが、年季の入った老死神の気持ちを理解してくれるらしい。
「ありがとう。いつかはりんねの晴れ姿の写真も見たいものだわ、ねえ、桜ちゃん?」
「はい?」
 この手のゆさぶりは通じないらしい。ぽかんとした顔をする桜を、冗談よと軽くいなす。
「楽しみにしているわ。桜ちゃんが撮ってくれる、りんねの写真」
 思い出を綴じたアルバムは押入の奥深くに大事にしまってある。
 その一枚一枚を懐かしみながら、彼女はそっと座敷の襖を閉じるのだ。







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