迦陵頻伽


 極楽に棲む鳥、迦陵頻伽【かりょうびんが】。妙なる声で鳴くというその鳥は、転じて美しい声をもつ花魁の異名でもある。
「そんなあだ名、嬉しくないなあ」
 真宮桜──こと花魁川蝉は、もの憂げに窓の外をながめている。
 姐女郎の丹頂が、びいどろの金魚を覗きながら笑った。
「『迦陵頻伽』の名は売れっ妓のあかしだよ。箔がついていいじゃない」
「そうかもしれないですけど……」
 はしたない声でよがる花魁だと言われているようで、あまりいい気分はしない。声には気をつけよう、とひそかに思う。
 丹頂の視線が彼女に移った。
「ここ最近、六道の若旦那が登楼【あが】ってないようだね」
「そうですね……」
 うわの空である。
「堅実な人なんです。……こういうところ、本当はあの人には合わないんです」
「そう言う割には寂しそうな顔をしてるね」
 桜は禿【かむろ】から丹頂の吸い残しの煙管を受け取った。気晴らしにと思い少し吸ってみるものの、やはり口に合わない。噎せながら、雁首を火鉢にたたきつけて灰を落とす。
 遣手婆が襖を開けるなり、桜の出で立ちを見て溜息をついた。
「お前、支度はまだだったのかい?」
「すみません。もう呼び出しが?」
「ああ。六道の若旦那がいらしてるよ」
 煙管をぽとりと落としてしまう。傍らで金魚に餌をやりながら丹頂がころころと笑った。
「姐さん、こんな格好でどうしよう?」
「あちきは知りんせんよ。そのまんまで行っておいで」





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