Am I being too selfish?



「真宮桜、あの世縁日のおみやげだ。もらってくれるだろうか」
 ありがとう、と桜は素直に受け取る。可愛らしい花の形の練りきりが四つ。こぢんまりとしているとはいえ、一人では食べきれないよと言えばきっと悲しそうな顔をするだろうから、黙って持ち帰ることにする。まあまあ日持ちがいいもので良かった。あの世の食べ物は、霊感のある桜しか食べることができない。両親に分け与えることはできないから。
 近頃はもうすっかり馴れてしまったやりとりだ。最初に感じていた違和感は薄れつつある。前は立場が逆で、桜がよく差し入れをしていた。もちろん今もよく届けに行くが、りんねからも返礼のようにこうして食べ物をもらうようになった。むしろ顔をあわせるたびに受け取っているから、あちらからもらう方が多いかもしれない。すっかり貢がれているような気分だ。
「なんだ六道。また真宮さんにゴマすりか?何かやましいことでもあるんじゃないか」
「六道、あんた桜を太らせたいわけ?」
 翼とれんげにつっこみを入れられ、これ以上の詮索を避けるためかりんねは逃げるように教室を去る。
 その日は、もう教室にはもどってこなかった。

 放課後、桜がクラブ棟を訪ねてみると六文が出迎えてくれた。りんねは徹夜続きで疲れているらしく、こたつ机に突っ伏してぐっすりと眠っている。
 聞いてみたかったことを、今なら彼の契約黒猫に聞けそうだ。
「六文ちゃん。最近よく、六道くんから食べ物をもらうんだけど、理由を知ってる?」
 六文はちらりと主の寝顔を一瞥して、内緒話の合図に指を立てた。
「りんね様は、桜さまとできるだけ長く一緒にいたいんですよ」
「どういうこと?」
「あの世のものを飲み食いすると、どうなるかご存知ですよね」
 霊が見えるようになる。身をもって知ったことだ。
「桜さまの霊感は、生まれついてのものではありません。だから、長くはもたないかもしれません。りんね様はそのことに気付いて、自分の食費を切りつめてまで、桜さまに貢ぎ物を。霊感を長持ちさせたい一心で」
 桜はりんねのあどけない寝顔をのぞき込む。六文も、机の上にぬいぐるみのように腰かけて、不安げにその様子を見守っている。
「りんね様の我儘は、めずらしいですよ」
「そうだね。いつも我慢してばかりなのに」
 桜はもらったお菓子を机に置いた。いまはもうこれを返しても、悲しませない自信がある。
「本当に、かわいい我儘だよね。──霊感なんてなくても、私は」
 六道くんの側にいるよ。離れていったりしない。
 眠る彼の手に自分の手を重ねてみると、寝顔がかすかに和らいだような気がした。





2016.01.10

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -