食事 (ハク千)



 ハクはあまり食べ物を口にしない。
 千尋のために料理をすることはよくあるが、自分は作ったものには箸をつけずに、にこにこしながら千尋が食べている様子を眺めていることがほとんどだ。
 それを千尋が指摘すると、彼は至極彼らしいことを口にした。
「こうして、おいしそうにごはんを食べる千尋を見ていられることが、私にとっては何よりのごちそうだよ」
「でも、それじゃ食べるうちにはいらないでしょ?ごはんはちゃんと食べないとだめだよ」
「私のことを心配してくれているんだね。でも大丈夫、龍が空腹で死ぬことはないよ。ものを食べなくても生きていけるから」
 ソファに座っている千尋を後ろから包み込む格好のハク。甘えるように顔を彼女の首筋にうずめてきた。
「けれど龍も、愛に飢え死にすることはあるかもしれない。だから千尋、どうか私にひもじい思いはさせないでおくれ」
 鎖骨のあたりに吐息を感じて千尋はくすぐったさに身をよじる。笑いながらハクは離そうとしない。
「じゃあ、ハクを飢え死にさせないためにわたしはどうすればいい?」
「わかっているくせに」
 首筋に口づけ。唇が肌をなぞる感触に背中がぞくぞくする。
「──食べてもいい?」
 何を、とは聞かずに小さく頷いた。
 もっと大きいソファが必要かもしれない。天井を見上げながらぼんやりと思う千尋だった。




(Thanks for your claps!)



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