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*十文字翼

 三界の町にもどりたい。
 あの町から引っ越して以来、翼が両親にねだることといえばそればかりだった。
「好きな子がいるんだよ。あの子の近くにいたいんだ」
 親譲りの霊感体質が祟り、おせじにも付き合い上手とはいえない子どもに育ってしまった一人息子。その翼が唯一心を開いた相手があの町にはいるのだという。
 両親はできれば翼の願いを聞いてやりたいと思うものの、仕事の都合上同じところに定住することは難しかった。
「翼がひとりで留守番できるくらい大きくなったら、またその子に会えるよ」
 そう言い聞かせれば、翼は素直に頷き、前よりも家事や家業の手伝いに励むようになった。
 ある日母親が荷物の整理をしていると、三界から転校する日、翼に持たせたインスタントカメラが出てきた。フィルムを写真屋に出して現像してもらうと、いつものように心霊写真だらけのなかでふと、目にとまる一枚があった。
 学校帰りの翼にそれを渡すと、彼は目を輝かせてよろこんだ。それはおさげ髪の可愛らしい女の子を撮った一枚で、被写体が誰なのかは母親にはすぐに察しがついた。
「この子、真宮さんっていうんだ。真宮桜さん」
「桜ちゃんっていうの?可愛い名前ね」
「帰り道で見かけたから。──ほんとうは一緒に撮りたかったけど、おれ、はずかしくて」
 翼は急に黙りこくってしまう。母親が顔を覗こうとすると、すんと鼻を啜りながら別の方を向いた。
「会いたいなあ、真宮さん」
 その日以来、初恋の人を写したその写真を、翼はまるで大切なお守りのように肌身離さず持ち歩くようになった。


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(2015.11.21)

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