one summer's night


 花火は火の玉、よく人魂にも例えられるという。
 今の時期、あの世の本屋を覗けば棚には読書感想文用の本がずらりと並んでいる。現世の小学生と同じように、子供死神は夏休み明けに宿題の作文を提出するわけだ。指定本には現世に伝わる怪談話を扱ったものや、過去の有名な死神をとりあげた偉人伝、成功や失敗から学ぶタイプの勧善懲悪、お涙頂戴の浄霊ストーリー、色々あるが中でも花火ネタは常套で、りんね自身も子供時代には死神小学校の図書館にある絵本なんかでよく目にしたものだ。
 正直なところ、花火はちょっと薄気味悪い、という印象をりんねはずっと抱いていた。人魂が夜空に昇っていくのを見ているようで、なんとなく気分のいいものではなかった。それは一種の職業病ともいえるのかもしれない。物心ついたころから死神の祖母についてまわっていたおかげで、オカルト慣れはしているが、代償としてごくありふれた光景にも霊的なものを見出す癖がついてしまった。
「六道くん、どうしたの?」
 隣にいる桜の声が見物客の喧騒の中で一際鮮やかだ。りんねは可憐な浴衣姿の彼女を見おろした。気遣わしげな目とぶつかった。
 黙っているので、桜に心配をかけたらしい。
「もしかして、おなかすいちゃった?私、出店で何か買ってこようか?」
「いや、大丈夫だ。すまん」
 こういう特別な時に意中の人に奢らせるなんて、男としてとんだ甲斐性なしのように思えて、居た堪れない。
 ひゅるるる、と空を切ってあの音が聞こえる。夜空に火の玉が昇っていく音。桜は期待をこめた眼差しでその行方を追っている。火の玉ではなくて、彼女の横顔をりんねは見ている。
「見た?今の、見た?すごい、今まで見た中で一番大きい花火だったよ!」
 普段は表情の変化に乏しい桜も、今夜は魔法にかけられたように色々な顔を咲かせる。子供のようにはしゃいでいる桜はりんねの目にはとても新鮮だった。
 なんてかわいいんだろう。
 つられてりんねの口角もほんの少し持ち上がった。
「今年からは、花火が好きになれそうな気がする」
 なぜかというと、それは。
「花火があがるたびに、真宮桜の笑顔がよく見えるんだ」




2015.08 clap
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