hue of gold and red

*犬かご

 市で入り用の買い物をすませたかごめは待ち合わせ場所に来てみるが、そこにまだ夫の姿はなかった。
 この町は武蔵の国からは遠いが定期的に大きな市が立つので年に一、二回ほど彼の背に乗せて連れてきてもらう。別行動をとる時はこの大銀杏が目印になるのでここで落ち合うことにしている。 
 露店には南蛮渡りの品なども並び、かごめの目を楽しませてくれた。ちょっとひやかすだけでも息抜きには十分だった。銀杏の木に寄りかかって機嫌よく鼻歌を歌っていると、色づいた葉が頭の上からはらはらと舞い降りてくる。
 ふと呼ぶ声がした。
 見上げてみると黄金に輝く銀杏の天蓋に、ひと刷きの赤があった。
「おかえり」
 思わぬ出迎えにかごめは目を瞬かせる。
「ずっとここにいたの?」
「ああ」
「一緒に来ればよかったのに」
「人混みは色んな匂いが混じるから好かねえんだよ」
 犬夜叉はひらりと地面に降りてかごめの前に立つ。髪についた葉をとってやろうとかごめが手を伸ばすと、眉をひそめた。
「消えてる」
「え?」
「さっきまで、かごめについてた俺の匂い」
 周りに誰も居ないのをいいことに犬夜叉はさらに距離をつめてくる。反射的に後ずさったかごめの背中が木の幹につくとまるで悪戯っ子のように笑って、顔を近づけてきた。
「ほら見ろ。人混みになんか行くからだ」
 腕に囲われてもう逃げられない。
 彼女から、彼の匂いが途切れることはない。


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(2015.11.09)

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