birds of a feather

*トオツバ

 ハンガーからはずすことを、躊躇してしまった。
 何年も前に袖を通すことを諦めた制服。そのよく見慣れた臙脂は、彼があの学校に対して吐き続けた恨みの念を、ひたひたに吸った色のようだ。
「制服の着方、忘れちゃいました?」
 顔を覗きこんでくるツバメの声は優しい。実に五年ぶりとなる明蘭学園への登校をひかえて、トオルがいつになく緊張していると思っているらしい。
「ブレザーも着れないようじゃ、高校生どころか幼稚園児からやり直すべきだな」
 皮肉っぽく笑うと、ツバメは励ますように頭をくしゃくしゃ撫でてきた。五つも年上なのはトオルの方なのに、最近どうも年功序列が逆転しているような気がしてならない。
「こんなにお利口さんな幼稚園児、見たことありませんよ?」
「こんなに頭の悪そうな高校生も、なかなか見かけないけどな」
 いててて。頬をつねられてトオルは余計な一言を後悔する。売り言葉に買い言葉がすっかり染み付いてしまっていけない。
 それにしても不思議だ。こうしてツバメとじゃれ合っているだけで、胸に抱える不安もわだかまりも全部、いつの間にか消えてしまっているのはなぜだろう。
 今度は躊躇なくブレザーに袖を通せた。待ちに待ち焦がれたその瞬間は、かけがえのないものだった。このうえない充実感に、彼の心はいっぱいに満たされた。
「私達、お揃いですね」
 ツバメは笑う。心の底から嬉しそうに。
 冬を越えてやってくる愛しい鳥。トオルにも、新たな春をもたらしてくれた。
 悔しいけれど、この子には多分一生かなわないと思う。
 この五年間──いや、きっとそれよりももっと前から、トオルが誰かに言ってほしくてたまらなかった言葉を、ツバメはいともたやすく与えてくれたから。

 一緒に、学校に行こう。
 上がれない階段は、ない。

 君と一緒なら、きっとどこまでも駆け上がっていけるだろう。


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(2015.11.16)

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