Secretive


 席が隣同士なので、日直当番はだいたいこの組み合わせになる。それはりんねが休みさえしなければの話だが、彼は日直の朝には、遅刻も欠席もせずきちんと登校するように心がけている。もう一人の当番の桜に迷惑をかけないためにも、この日にかぎっては、死神稼業よりも学校を優先するのだ。
「おはよう、六道くん」
 教室に入るとすでに桜が来ていた。こんなに早く登校するのは日直くらいのもので、他にはまだ誰もいない。
 桜は前日に誰かが落書きしたままだったらしい黒板をきれいにしていた。つま先立ちになって、黒板消しを動かすのに苦労している。それを見たりんねは黄泉の羽織を椅子の背もたれにかけて、彼女の背中に近づいていった。
「真宮桜」
 桜が振り返る。りんねが手を差し出すと、合点がいったらしくふわりと微笑んだ。
「代わってくれるの?ありがとう」
 りんねは黒板消しを受け取り、桜が消せなかった部分をきれいにしていく。横目にちらりと様子をうかがうと、彼女は黒板の右端に日直の名前を二人分書いているところだった。しばらく見ていると、視線に気付いた桜が一瞬りんねの方を流し見て、ほんの少しだけ口角をもちあげた。
 何をたくらんでいる?
 黒板消しを置いて、りんねは首を傾けた。花びらが一枚、また一枚と開いていくように、彼女の笑みがいっそうほころびた。
 二人の名前の上に、赤いチョークで相合傘が描かれている。ついにやっとしかけて、りんねは慌てて顔を引き締め、あさっての方を向いた。窓の外は秋晴れのすがすがしい青空だ。朝方の気温が下がってきたため、教室はもう暖房がついていて、凍えることもない。
 ぎこちないながらも、手を繋いでみる。外から来たばかりのりんねの手はまだ冷たいが、桜の手はもうぬくまっている。人肌の心地よい温かさを、彼女から分けてもらうことにする。
「もうちょっとだけ、秘密にしていたいよね」
「──俺は別に、知られてもかまわないんだが」
 虫除けになるし。
 と思いこそすれど、口には出さなかった。
 きっと桜には思うところがあるのだろう。ひょっとすると、二人だけで共有する秘密を楽しんでいるのかもしれない。りんねがそんなことを思ううちに、彼女は二人の名前の上に描いた相合傘を消してしまった。
「日誌、取りに行こうか」
 手を離さないまま、教室の外へ出る。廊下はまだしんと静まり返っている。教室と違って暖房の効かない廊下は肌寒く、ぬくもりを求めてりんねは桜の手を強く握り締めた。
 そのうちどこかから誰かの足音が聞こえてくるかもしれない。そうしたらきっと、秘密主義な彼女はこの手を離してしまうだろうから。
 せめて職員室に着くまでの間は、どうかまだ、誰も来ませんように。




2015.10.27
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