first love

*りんさく

 ただの一度もほかの異性に好意をもったことがないと言えば、きっと嘘になる。桜は、初めての恋人に対しては、いつでも正直者でありたいと思った。
「中学校の時、学年で一番足が速い男の子がいてね。陸上部だったけど、スポーツはなんでも得意だったの。頭も良くて、友達が多くて、いつもみんなから一目置かれてた。あの男の子のことは、私もかっこいいと思ったよ。中二の時に同じクラスになったんだけど、席替えで隣の席になって、ほんのちょっとだけ嬉しかったかな」
 夕暮れどきの公園。なんとはなしに二人で道草を食っていたら、いつのまにか空が燃えるように赤い。
 お互いにあまり過去の話をしたことがないと気付いたのは、つい最近だ。それから少しずつ、桜は彼に自分のことを語るようになった。仲の良かった友達のこと。給食で好きだったおかず。部活動に明け暮れた日々。本当に他愛もないことばかりだが、お返しに相手からも新しい情報が寄せられるのが面白くてたまらない。今まで不透明だった彼の過去を知るうちに、桜自身もつい饒舌になってしまった。
 隣のブランコを見る。漕ぎ出そうとする気配がない。地面に足をつけ、りんねがなんとも言えない顔をして彼女の顔を眺めていた。
「どうしたの、六道くん?」
「いや、──正直ほっとした」
 溜息をついて、胸に手をあてるりんね。ブランコを漕ぐのをやめて、桜は小首を傾げる。
「ほっとしたって、何が?」
「その男子に、真宮桜を取られなくてよかった、と思って」
 つい、桜は笑ってしまった。彼もまた正直者だ。
「彼とは何もなかったよ。三年になったらクラスが離れて、もうそれきり。あまり喋ったこともなかったし」
「恋をしていた、そういうわけではなかったのか」
「ううん、違うよ。あれは恋じゃない」
「だが、真宮桜はその男子に好意をもっていたんだろう?」
「そうかもしれないね。いい人だなって思ったから。でも、私にとっては、六道くんが初めてなの」
 桜は隣に向かって手を伸ばす。
 遠慮がちに彼の指が絡まり、目が合ってしまうとまた、互いに離しがたい思いにとらわれる。
「生まれて初めてだよ。こんなに、誰かの傍にいたいって思うことは」


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(2015.10.07)

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