お二人の目が合うことはあまりない。けれどお互いによく見ているな、ということは傍目から見て明らかだ。 例えばりんね様が造花の仕上げに没頭している時。桜さまは膝に乗せたぼくを撫でながら、りんね様の横顔を見つめている。 反対に、桜さまがぼくに話しかけている時。りんね様は鎌の手入れをやめて、桜さまの表情を窺っている。 相手の意識が自分から逸れた時、お二人はお互いのことを見ようとする傾向にあるらしい。けれど目が合うことなく行き違ってしまうから、おそらく、相手の視線には気付いていないんじゃないかと思う。 「真宮桜には今日も厄介をかけてしまったな」 来客が帰ったあとの机には二人分のオムライスが載っている。りんね様と、ぼくの分。あの人は学校から家に帰り、わざわざ差し入れをするためにまたクラブ棟まで戻ってきてくれた。 「桜さまは優しいお方ですからね。今月もりんね様がピンチだと知って、近頃は毎日のように届け物をしてくださいますね」 「ああ。いつも彼女の厚意に甘えてばかりだ」 ぼくのご主人様は手をつけることが惜しいように、まだ作りたてて温かそうなオムライスを見下ろしている。 りんね様にとって桜さまはどんな存在に見えているのだろう。高嶺に咲く花。心優しい天使。多分そんなところかもしれない。いずれにしても手の届かない存在。 でも、傍観者のぼくは思う。思うと同時に、そうであってほしいと願ってもいる。 桜さまがりんね様のためを思ってくれること。 それは厚意というより、むしろ好意なのでは──と。 back |