A Cat's Revenge


 風呂から上がってくると、ベッドの上にすらりと細身の黒猫が座っていた。
「何してるのよ、朧」
 無論言葉を持たない黒猫は答えはない。さくらんぼのようにつぶらな赤い目が彼女を捉える。近づいていって頭を撫でてやると、ニャア、と少し掠れた声で黒猫は鳴いた。
「そんな格好でいるの、珍しいじゃない。どういう風の吹き回し?」
 気持ちがいいのだろうか、撫で続けていると、ごろごろと黒猫の喉が鳴った。鳳は近頃は久しく感じていなかった愛おしさに見舞われて、その黒猫を胸にかき抱いた。
「かわいい!」
 そのままベッドに仰向けになる。彼女の背中でスプリングがギイ、と音を立てた。小さな頭に鼻を埋めてみても黒猫の毛はすこしも獣臭くなく、ふわりと彼女と同じ石鹸の香りがした。
「ねえ朧、ずっとこのままでいてちょうだいよ。とってもかわいいから、ずっとこうして抱いていたいわ」
 くすくすと笑いながら、感極まってつぶれそうなほど強く愛玩動物を抱き締めてしまう鳳。黒猫がニャアア、と苦しそうな声を発したかと思うと、次の瞬間にはその愛らしい姿は忽然と消え、代わりに鳳の上によく見馴れた少年がどっかりと覆いかぶさっていた。黒猫朧は怒り心頭といった様子で自分の女主人に顔を近づける。
「何しやがるんだ、鳳さま!危うくあんたの胸で圧迫死するところだったぞ!」
「胸で圧迫死ですって?いやらしい猫ね!あんたこそ私をつぶしかけてるじゃない!」
 殺されかけたのは朧なのに、頬を思い切りひっぱたかれた。なんという理不尽。
「なによその目。やろうっての?」
 朧の下から鳳が挑発的な眼差しで見上げてくる。朧はむかっ腹がたって仕方がないが、曲がりなりにも鳳は彼の女主人。彼は従属する側だ。その可愛い顔をひっぱたき返すような真似はできない。
 だから、別の方法で仕返しに出た。
「鳳さま」
「反省する気にでもなった?」
「バッカじゃねーの。おれは何も悪いことしてねえし」
 なんですって、と拳を振り上げた瞬間その手首をぐっとつかみ、枕に押しつけてやる。攻撃をあっさりと封じられあっけにとられる主人に、にやりと一笑。
「どうだ。まいったか、ワガママお嬢様」
「くっ、生意気よ!」
 鳳は悔しまぎれにわめきたてる。「覚悟しておきなさい!後でちゃんと躾してやるんだからっ」
「へーえ。あんたがこのおれを躾られるのかよ?このザマで!」
 まだ得意気ににやにやしている朧。鳳はギリギリと唇を噛む。力では勝てないかもしれないが、権力を持っているのは彼女なのだ。見ているがいい。
 猫の仕返しのあとは、主人の倍返しだ。





2015.07.12
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