花に祈りを



「罪を認めれば、永遠に消えない烙印を押されることになるんだぞ。──それがどれほど恐ろしいことか、きみは分かっているのか」
 架印の眼差しは切実だった。嘘なら嘘と言ってくれ、と訴えかけているようだった。
 行動規範から逸脱し、罪なき命に対してぬぐい去れない罪を犯した死神は、焼き鏝でもってその肌に刻印を施される。古くからの厳格な掟だ。最も不名誉な者の証しである「死罪」の烙印は、どれほど悔悟しようと永劫消えることはない。
「きみはあの六道鯖人に脅されて、仕方がなく堕魔死神カンパニーで働かされたんだ。そうだろう?それに、生きている人間の魂までは狩らなかったはずだ。──だとしたら情状酌量の余地は、十分にある」
 れんげは彼には背を向けている。カンパニーが役所のガサ入れに遭い、散り散りに逃げようとしたところを皆仲良くお縄についてしまった。命数管理局に連行されて以来、我が目をどうしても信じられずにいる架印が何度も話に来たが、彼女は一度も目さえ合わせようとしなかった。
「れんげ。ぼくは、きみを救いたいんだ」
 自分には見れない夢に限りなく近いところにいた彼女は、彼にとっての高嶺の花にも似ていた。こんなところで、枯れて朽ちることがあっていいはずがなかった。
「どうかぼくを見てくれ、れんげ。──きみは今、何を考えている?」
 祈りは花には届かない。その名に悲しいほど相応しく、役目を終えたあとのように固く閉じてしまったれんげ。
「もうここには来ないでください、架印先輩。私と知り合いだと知られれば、先輩もきっととばっちりを受けます」
「そんなこと、ぼくは──」
「何も先輩のことを思ってるわけじゃありません。私が気にするから、恨まれたくないから、言っているんです」
 まるで他人事のような物言いだった。彼には見えない顔にはらはらと涙を落として、それでも声は気丈に保ちながら彼女は告げた。
「さようなら、架印先輩」



2015.07.11
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