二度目の春が来ました。


 絶対に離ればなれになるはずがない──。そう確信していただけに、あてが外れたことへの衝撃は計り知れないほど大きかった。
 前の席から回ってきたプリントにざっと目を通し終えたりんねは、目に見えて分かるほど意気消沈していた。しびれをきらした後ろの席の生徒から早くプリントの残りを回すように急かされても全く耳にはいっていないようだ。それを横目に捉えた桜は怪訝に思いながらも、声をかけるためにすこし身を乗り出した。
「六道くん。次、回さないと」
「──え?……ああ」
 死んだ魚のような目をしてのろのろと残りのプリントを後ろに回す彼。普段から何を考えているか分からないようなところはあるものの、いつになく無気力な様子のクラスメートに桜はいよいよ心配になる。
「ねえ、大丈夫?」
 りんねはちらりと桜を一瞥したかと思うと、捨てられた子犬のように悲しげな目をしてすぐに視線を逸らした。
 ざわざわと周囲が騒がしくなる。担任の姉祭先生が教室から出ていったようだ。皆、たった今配られた新しいクラス分けのプリントの話題で盛り上がっていた。プリントを見ようとした桜のところへも親友のミホとリカが詰め寄ってきた。
「桜ちゃん、今年は別のクラスになっちゃったね。リカちゃんも違うクラスだし、三人ともバラバラになっちゃった」
 プリントを握り締め、二人とも寂しそうな顔をしている。桜も思わず眉を下げた。
「……そっか。仕方ないね。こういうのって、仲良しだと離ればなれになっちゃうんだよね」
 桜はクラス分けの名簿を見おろした。彼女の名前は一組の列で見つかった。列の上の方には、ミホとリカ以外の二人のクラスメートの名前もあった。
「翼くんとれんげは、一緒なんだ」
 けれど、彼の名前は──。
 隣の席を見遣ると、縁あって今年もまた彼女とクラスメートになる二人が、いつのまにやらそこにいた。二人ともやけに晴れ晴れとした顔をしている。
「六道、残念だったな。真宮さんと一緒になれなくて」
「別のクラスになってせいせいしたわ。これでもう、二度あんたに私の邪魔なんてさせないんだから」
「まあ、安心しろ。お前がいなくても、俺がちゃんと真宮さんを守るから。お前は安心して死神稼業に専念するんだな」
「桜がいるからって、私達の教室に来ないでよ。邪魔だから」
 相変わらず言いたい放題の翼とれんげだが、机に頬杖をついてぼうっとしているりんねは全く意に介さない。というより聞こえたことが右耳から左耳に通り抜けているようだ。
 翼が彼女に向き直った。りんねとは見事に対照的なほくほく顔。
「真宮さん、今年もよろしくね。何があっても、俺がきみを守るから」
「騎士【ナイト】がこのインチキお祓い屋だなんて、ちょっと頼りないわね」
 れんげの冷ややかな一言にとさかを立てる翼。ミホとリカがなだめすかしている傍らで、桜は相変わらず落ち込んでしゅんとしているりんねをつついた。
「違うクラスになって、残念だね」
 りんねはプリントを見おろして、小さく溜息。
「本当に、残念だ。くじ運はいい方なのに」
 くじ運とクラス替えはあまり関係ない気もするが、笑って受け流すことにする。
「私も、六道くんを当てられなくて残念。当たってたら、大当りだったのに」
「──十文字とは一緒なんだな」
「うん。れんげも同じクラスだから、また騒がしくなりそうだよ」
「何かあったら、俺のところに来てくれ」
「ありがとう。でも、忙しい六道くんになるべく迷惑はかけないよ」
「いや、来てほしいんだ。お前の相談だったら、俺は、いつでも」
 熱っぽく身を乗り出してきたかと思えば、目が合うと、またしゅんと肩を落としてもとの位置に戻った。桜と同じクラスになれなかったことが相当堪えているらしい。
「今までと同じようには、ならないか」
「そんなことないよ。今まで通り、放課後になったら、六道くんと六文ちゃんに会いにクラブ棟に行くよ」
「──本当か?」
「本当だよ。ママからのお裾分けも届けたいし。きっと、そんなに今までと変わらないよ」
 それでもりんねはまだ浮かない顔をしていて、桜はすこし名残惜しく思いながらも、そろそろ新しいクラスに移るために立ち上がらなければいけなかった。
「じゃあ。……また、後でね」
 鞄を肩にかける。教室を出ていこうとすると、今年も同じクラスになる同級生が桜のあとから何人かついてきた。よろしくね、と話しかけられて、こちらこそよろしくね、と笑顔で返す彼女。
 背中には彼の視線を感じていた。

「お前、俺達の教室で怪奇現象でも起きればいい、なんて不謹慎なこと考えてないだろうな?」
 翼に怪訝な顔で指摘され、途端にりんねは水を得た魚よろしく生き生きとした目になる。しまった、余計なことを言うんじゃなかった、と今更後悔する翼だった。
「絶対に来るなよ、貧乏神!」
「いや、しかし人間の手には負えない危険な霊もいる。そんな時には、俺が出張るしかないだろう」
「お前の助けなんぞいらん!」
「十文字、勘違いするな。何もお前を助けに行くわけじゃない」
「なんだと!?」
 二人の少年は静かに火花を散らした。その傍らで、やれやれと頭を振りつつ、今年もまた周囲が騒がしくなりそうなことを予感するれんげだった。



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永遠の高校一年生な彼らとは無縁な話。


2015.03.21
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