いつもの朝 ※未来妄想


 朝食の席につくなり、あの世での残業続きがたったって寝不足なせいか、あくびばかりしていたことが嘘のようにりんねはきらきらと目を輝かせた。
「今日もおいしそうな朝食だ!さて、ありがたくいただくとしよう」
 グラスにオレンジジュースを注ぎながら、桜は五歳になる息子と顔を見合わせる。やれやれまたか、と子どもに肩を竦められるりんねが気の毒のような、それでいて愛おしいような気持ちで、桜はクスッと笑った。
「うまい!」
 たかが味噌汁に大袈裟なんじゃない?と疑問に思ったのは新婚当初までのこと。桜も今ではすっかり耐性がついてしまっている。味を褒めてもらったことを、素直に喜ぶことにしていた。
「みずみずしいプチトマトがルビーのようだ」
「炊きたてのごはんをこうして食べられるなんて、俺はなんて果報者なんだろう」
「このスクランブルエッグは、まるで天国の絨毯のようだ!」
 ここまできて、笑いをかみ殺す桜の隣でついに、黙って聞いていた息子がしびれをきらした。
「パパ、うるさーい!毎朝毎朝同じことばっかり!もう聞きあきちゃったよ!」
 りんねは「えっ」と目を丸めて正面に座る愛息子を見やる。自分と瓜二つの我が子が不愉快そうに頬をふくらませていた。こらえきれずに桜が、ふふっと笑い声をこぼした。二人の視線が彼女に向いた。
 桜は優しい手つきで子どもの頭を撫でながら、言った。
「二人とも、なんだか可愛いなあって思って」
 男に「可愛い」は褒め言葉じゃない!むきになった夫と子どもに返されて、ますます笑ってしまう桜だった。



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