日曜日の朝


目覚めてみると、隣にハクの姿がなかった。寝起きの鈍い頭でぼんやりとその理由を考えていた千尋は、開いたドアの向こうから漂ってくるトーストの香ばしい匂いにハッと飛び起きる。
「ご、ごめん!わたしったら、また寝坊しちゃって──!」
 いそいでオープンキッチンに駆け込むと、エプロンをつけたハクがきょとんとした目で見つめ返してきた。片手にはフライパン。もう片方の手にはフライ返し。
「おはよう、千尋。起こしてしまったかな?」
 クスクスと笑いながら小首を傾げるハク。千尋は顔を真っ赤にして視線を逸らす。テーブルには既に朝ごはんのしたくが整っており、あとはハクが今皿によそっている目玉焼きさえ加われば完成だ。おっちょこちょいの千尋とは対照的に、何につけてもそつのない夫である。
「わたし、ちゃんと目覚まし時計セットしたはずなのに!」
 頭を抱える千尋をつぶらな瞳で見上げながら、まだ一歳にも満たない息子がキャッキャッと笑っていた。首から下げたお気に入りの前掛けは、きっとねだってハクにつけてもらったのだろう。
「千尋、飲み物は何がいい?私は千尋と同じものにしようかな」
 戸棚を開けながらまぶしい笑顔でたずねてくるハクの、その完璧なまでの主夫ぶりに、自分が心底情けなく思えてくる千尋だった。
「ハクに合わせるわ。ああ、もう嫌になっちゃう……」
 幼い息子が口の周りをおかゆだらけにしているのを見て、千尋はしょんぼりしながらキッチンに向かう。彼女に清潔なタオルを手渡すと、ハクはその肩を自分の方へ抱き寄せた。
「日曜日くらいは私にまかせて。私はね、千尋の役に立ちたいんだ」
 顔を上げると、額に彼がそっとキスを落とした。怖いくらいに幸せだ、と千尋は現金なことを思った。



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