◎ 魔法がとける刻限 - 前編 -
辺りを覆う極彩色が目にしみる。弾けるような笑い声が響いている。見渡す限りの人々は、大人も子供も皆がまるで魔法にかかったように、終始笑顔を絶やさずにあちこちではしゃぎ回っている。
秋山は手にしていたデジタルカメラのシャッターを切った。レンズの向こう側には、ゆるやかに回るメリーゴーランドの、白馬のひとつに跨って彼にピースサインを送る直の笑顔があった。うまく撮影できたか確認するために、その笑顔をおさめた写真をデータフォルダから抽出する。手ぶれせずに撮れたことを確かめると、秋山はしばしその写真を見詰め、それから唐突にクスクスと笑いに興じ出した。
「何がおかしいんですか?秋山さん」
緩む口元を手で隠しながら顔を上げた。いつの間にか隣に来ていた直が、不満げに唇を尖らせている。カメラのスクリーンに映る彼女の写真を見て、まだ肩をぷるぷると震わせている秋山が、
「いや、別に…」
と白々しく言ってのけた。直の片眉がぴくりと攣る。
「あんなにはしゃいで、子供みたいだって思ったんでしょ。お見通しですよ」
肯定も否定もしなかった。秋山は穏やかな眼差しを彼女に向けた。じっと見つめられて、直は俄然居心地が悪くなる。視線を振り切るように後ろを振り返った。眼差しの先にあるジェットコースターを指さしながら、彼の腕を引く。
「ほ、ほら、秋山さん!次はあれに乗りましょうっ」
「いや、俺はいいって。君ひとりで乗ってきな」
「だめです。乗り物に乗らないと遊園地に来た意味がないじゃないですか!」
振り向きざまに向けられた、弾けるような笑顔にほだされて、秋山は仕方ないなと肩を竦めた。その腕を引きながら、一歩前をゆく直がほんの少し表情を曇らせたのを、彼は知らない。
To be continued...
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