Knight of the Night | ナノ

Knight of the Night




 リリーは盛大な溜息をついた。
 既に生徒達は寮の談話室に戻っている時間だが、彼女は湖のほとりにひとりぽつんとたたずんでいる。
 この凍てつくような寒さの中、彼女は全身から水を滴らせていた。
 水をたっぷり含んで重いローブを無造作に脱ぎ捨て、彼女は悔しそうに歯がみする。
「誰にやられた?」
 驚いて横を向くと、幼なじみのセブルスがそこにいた。手にはたった今リリーが打ち捨てたびしょぬれのローブを持っている。
「セブ、どうしてここに……」
「そんなことはどうでもいい。僕の質問に答えて、リリー」
 セブルスは静かな怒りを湛えた瞳で湖に映る月を見ていた。
「スリザリンの女子たちが、君をここに呼び出したんだろう」
「……」
「そして君を湖に突き落としたんだ。違う?」
 リリーはうなだれた。幼なじみは何もかもお見通しらしい。
「……魔法薬の合同授業で、わたし、スラグホーン教授に褒められたでしょう」
「……」
「そうしたらあの子たちに言われたの。グリフィンドールのくせにスリザリンの寮監に媚売るな、って」
 気の強いリリーはスリザリン生の嫌味にも屈さず、むしろ果敢に立ち向かった。その結果、多勢に無勢でしてやられ、この有様だ。
「あいつら、リリーのことが羨ましいんだよ」
 セブルスがぽつりとつぶやいた。いつのまにか魔法で乾かしたローブを、リリーの肩にそっとかけてやる。
「君は勉強ができるし、箒だってうまく乗れる。……おまけに、すごく美人だ」
 セブルスは微妙に顔を逸らした。照れているようだった。
「――リリー。みんな、君のことが眩しいんだよ」
 リリーはエメラルドの目をぱちくりさせた。それから、ほろり、と涙を一粒落とした。
「リ、リリー?」
 ぎょっとしたセブルスが顔を覗き込むと、リリーは涙を流しながらも微かに笑ってみせた。
「やっと、泣けた」
 彼女はしゃくり上げながらいう。
「ひとりだったら、わたし、絶対泣けなかったわ」
「リリー」
「……ありがとう、わたしのナイトさん」
 セブルスはその誉れ高い称号にしばし酔い痴れた。

 翌日。リリーに嫌がらせをしたスリザリンの女子たちは、何者かによって朝食に異物を混入されたらしく、顔に謎のできものができてしまいそろって医務室行きとなった。





end.

(2012.12-2013.01 拍手)
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