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 ここしばらくの間、王都・キングズベリーから離れられずにいて、魔法使いハウルはひじょうに辟易していた。
「仕方がないじゃない、ね?」
 恋人のソフィーは温かい紅茶と気遣いをもって、そんなハウルを優しく慰める。
「戦争を終わらせるには、ハウルみたいにすごい魔法使いの力が必要なのよ、きっと」
「……」
「王様もサリマン先生も、ハウルをとても信頼しているんだわ」
 ハウルは唇をへの字に曲げた。
「だからって、四六時中僕を王宮に置いておかなくたっていいじゃないか!まったく…サリマン先生は本当に人使いが荒いよ」
 師匠に対してぶつぶつ文句を垂れるハウルの手を、ソフィーは宥めるようにそっと撫でてやった。ハウルはだんだんと大人しくなっていき、最後に角砂糖を一つ落とした紅茶を勧められて飲むと、すっかりいつもの甘えん坊でお調子者な彼に戻っていた。
「早くソフィーに会いたくて、今日も頑張ってきたよ」
 暖炉の中で薪がはぜる音がした。火の悪魔が笑いを堪えながら、ソファーの上で恋人に甘える魔法使いを見ていた。
 その視線を知ってか知らずか、抱き着かれながらソフィーがくすくす笑った。
「あたしも、早くハウルに会いたかったわ」
「本当に?」
「本当よ。あなたの部屋を綺麗さっぱり掃除したから、一刻も早く見てほしくて」
 ハウルは青い瞳をこぼれんばかりに見開いた。そして悪戯が見つかった子供のように落ち着きがなくなった。
「ぼ、僕の部屋は掃除しなくていいって、いつも言ってるのに……!」
 ソフィーは今度こそ声を出して笑った。
「嘘よ、嘘。がらくたがいっぱいあるから掃除したくてしょうがないけど、本当に必要なものまで捨ててしまったら大変だもの。ハウルがお休みをもらえるまで、我慢するわ」
 ハウルは安堵の表情を浮かべた。それから急に不敵な微笑みをちらつかせた。
「僕に嘘をつくなんて、ソフィーは度胸があるね」
 押し倒されてソフィーが小さな悲鳴をあげたが、それはハウルの唇によって遮られた。声を聞き付けて階段を降りてきたマルクルが、ソファーの上で熱いキスを交わす二人を見て、真っ赤な顔をして自分の部屋に駆け戻っていった。
 いよいよハウルがブラウスを脱ぎ始めたので、カルシファーはこっそり外に出ることにした。困ったことにこの魔法使いは、人の目があろうとなかろうと、全く意に介さずに事をすすめてしまうのだ。
「ソフィー中毒だな、ハウルのやつは」
 夜空を浮遊しながら、火の悪魔は笑った。まるでそれに同調するかのように、星の子達がちかちかと輝いた。





end.
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