花嫁御寮  6:残念



「えー、今日は皆に報告がある。急なことだが、今日をかぎりに、四魔れんげが転校することになった」
 高二の秋。掛け替えのない同級生を失った桜に、またひとつの別れが訪れた。
「リストラされたのよ、私」
 放課後、クラブ棟で荷造りするれんげを尋ねると、彼女は素っ気なくそう言い捨てた。
「ま、いいわ。いい機会よね。これを機に私、堕魔死神からは足を洗うから」
 堕魔死神やってても、たいして儲かりもしないし。と、自尊心を傷付けられ落ち込んでいるはずなのに、なるべくそんな様子をみせまいと、れんげは虚勢を張って笑ってみせた。
「……どうしてれんげみたいな真面目で優秀な人が、リストラなんて」
 困惑する桜に、カーテンをたたみながられんげは今度ばかりは辛辣に呟いた。
「社長が替わったのよ。私だけじゃないわ、多分社員のほとんどが、そいつにリストラされたと思う」
「……社長が、替わった?」
 にわかに桜の顔色が変わった。振り返るれんげの眉根が、きつく寄った。
「誰が新しい社長になったと思う?」
 嘘、そんなわけない。桜は無意識のうちに、胸の前で手を組んでいた。祈るように、自分の嫌な予感が外れることを切望した。しかしれんげの発した名が、その望みを粉々に打ち砕いた。
「六道りんねよ」


 今朝、十文字家に何度目かの挨拶をしに行くと、玄関の花瓶が突然真っ二つに割れた。恐らくは誰かの強い念がそうしたのだと、怪異に馴れきっている翼の母は神妙に言っていた。
「うちはお祓いをやってるから、悪霊からはよく恨みを買うのよ」
 けれど桜は割れた花瓶のかけらを拾い上げながら、そこに残る念から悪意よりはむしろ、切ないほどの好意を感じ取っていた。
「もしかして、近くにいるのかな」
 心が頼りなく震えた。翼と彼の母が雑巾を取りに行っている間、桜は思わず辺りに視線をさ迷わせ、いるはずのない人の姿を探していた。


 その家の屋根で、大鎌を持った男が立ち尽くして羽織を風にはためかせていたが、くるりと振り返ったかと思うと、一瞬の後にはいずこへとかき消えた。
 空にぼんやりと浮かぶ有明の月が、流れてきた雲に隠された。




To be continued


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