◎ brilliance
「ああ、僕の可愛い奥さん。今日もとっても素敵だよ!」
街のど真ん中で、美しい魔法使いがそうして浮かれた声を張り上げれば、当然人々が何事かと振り返る。
彼の隣を歩く星色の髪をした娘が、恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「ハウル、そういうのやめてったら――!」
「なぜ?」
魔法使いハウルはにっこりと笑う。
「僕は思ったとおりのことを言っただけじゃないか」
「……それが恥ずかしいのよ!」
「恥ずかしがることなんかないさ。なんてったってソフィー、君は僕の世界一可愛い奥さんなんだから」
ハウルはうっとりとソフィーの手を撫でた。
話していても埒があかない。ソフィーはほてった頬を手のひらで包み込む。
今日のドレスも素敵だね、僕の贈った指輪が良く似合うね、笑顔が誰よりも可愛いね――。
そんな歯の浮くような台詞を、ハウルはいつだって臆面なく口にする。
人目があろうがなかろうが、おかまいなし。
ソフィーは穴があったら入りたい気分だった。
「ああもう、逃げたいわ……」
「ここから?」
独りごとのつもりだったのに、ハウルは耳ざとく聞きつけたらしい。サファイアブルーの目を輝かせ、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「じゃ、逃げちゃおうか」
ソフィーが言い返す前に、ハウルが彼女の肩を抱いて地を蹴った。
ソフィーは、小さく悲鳴を上げた。
彼女の足もまた、地面を離れていた。
ぐん、と宙に浮かび上がる。
まるで胃袋を地面に置き去りにしたかのような感覚。少し恐くなって、ハウルの胸にしがみついた。
「大丈夫かい?」
「――もう!」
ハウルはソフィーの頬にそっと口付けた。
ソフィーはおそるおそる下を見る。小さくなった人たちが、ふたりを見上げていた。
ドレスの中を気にしながら、ソフィーは素っ頓狂な声をあげた。
「ますます目立ってるじゃない!」
「しょうがないよ」
ハウルは黒髪を風になびかせながら、ソフィーに笑いかけた。
「どうせ僕達は、どこに行ったって目立つさ」
ソフィーはぐっと言葉につまった。
太陽を受けて輝くハウルの笑顔は、悔しいほどに眩しかった。
end.
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