変わり者二人


「瀬文さんってモテないでしょ?」
 吐き気をもよおしそうな特濃蜂蜜コーヒーをうまそうに啜りながら、無神経な餃子女は続けた。
「ハゲだし、筋肉馬鹿だし、無愛想だし。婿のもらい手がなさそうっすよね。いるとしたら、よっぽどの『変人』っすよ」
「人のこと言えるか、この味覚音痴」
 相棒の悪口雑言にはとうに慣れたが、癪にさわるものはやはりさわる。
 瀬文の渾身の睨みに、当麻は白い歯をこぼして笑った。
「あたしはこう見えても結構モテるんですよ」
「嘘つけ」
「あ、でも寄ってくるのは『変態』ばっかですけど」
 瀬文は苛立ち混じりに舌打ちした。
「なんすか?感じわるっ」
「うっせえ」
「言いたいことがあるなら言ってみなんせ」
 相棒の反応がないため興をそがれたらしく、当麻は右手でぼりぼりと頭を掻きながら「便所」と言い置いて席を立った。
 瀬文はデスクを蹴り飛ばす。
「変態呼ばわりか、畜生」

 便所からもどった当麻は濡れた右手をぶらぶらさせながら、にやにや笑っている。
 瀬文の背後に立っているものだから、仕事に集中したくとも気が散ってしょうがない。
 たまらずに瀬文はイスの向きを180℃変えた。
「さっきからなんだ気色悪い。そしてきたねえ。手はハンカチで拭け」
「瀬文さん。ハゲでも筋肉馬鹿でも無愛想でも、婿のもらい手はありますから安心してください」
「くだらんことを蒸し返すな。さっさと仕事しろ」
 当麻が右手を出してきた。瀬文にはわけがわからない。わからないので無視していると手のひらで顔面を鷲掴みにされた。悪態をつく瀬文に当麻はまだにやにやがとまらない。
「だーかーらー、言ったっしょ。もらい手はあるって」
「ああ!?」
「ああ!?じゃないっすよ。この『変態』野郎」
 売り言葉に買い言葉。顔を真っ赤にして、瀬文は吠え返した。
「まわりくどいんだよ、この『変人』!」



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