夜宴 - 2 -




 巨大なクローゼットのなかにずらりと並ぶ衣装はどれもきらびやかで桜は目がちかちかした。
「えーっと、これがいいかしら、それともこっち?」
 鳳があれこれとけばけばしいドレスを取り出してはカーペットに無造作に放り投げていく。そのたびに色鮮やかな裾が幻想的に宙を舞い、すごいなあ、と桜はなかば呆然とその様子を見つめている。
「ちょっと桜、なにぼーっとしてんのよ」
 怪訝な顔をして鳳が振り向くと桜ははっと我に帰って、うずたかく積まれたドレスの山を物色し始めた。
「すごい数だね。鳳はよくパーティーとか行くの?」
「まあね。でも招かれることより、うちに招くことのほうが多いけど」
 と、死神の少女は誇らしげに胸を張り、いったけドレスを漁ったので今度はジュエリーや靴をさがし始めた。
 桜は放ってよこされたチョーカーをキャッチして、その大粒のガーネットにめまいがしそうになる。高級な宝石などもこの令嬢には石ころのようなものでしかないのだろうか。
 いつも質素な生活を送るりんねを見ている桜としては、鳳の途方も無い財力を見せつけられて、やはり死神のなかにも格差があるものなんだと改めて実感せざるを得ない。
「桜、これなんてどう?そのチョーカーに合うと思うんだけど」
 鳳が真紅のドレスを掲げてみせた。赤髪の彼と並ぶなら引き立ちそうな色ではあったけれど桜は首を横に振った。
「私にはちょっと派手すぎるよ」
「えー?そんなことないわよ」
 むしろ派手好きの鳳には物足りないらしい。
「胸のところにもうちょっと飾りがほしいわよね」
 などとこぼしているのをききながら、桜はざっと衣装の山に目を走らせる。どれもこれも派手な極彩色で、淡色好みの彼女は目が染みた。
「ところで桜、前から気になってたんだけど」
 なるべく抑え目の色のドレスを物色していた桜に、鳳がさり気ない様子を装って訊く。
「あんたはりんねのことをどう思ってるわけ?」
「どうって、どういう意味?」
 桜は動作を続けながら聞き返した。
「にぶいわねー。好きなのかそうじゃないのか、って意味に決まってるじゃない」
 気軽な調子で鳳が畳みかける。答えに窮するだろうと踏んでいたが、
「六道くんのこと?好きだよ」
 あっさりと返されて顎が外れた。
「なっ、なっ……」
「友達だし」
 これまたあっさりと桜がそうつけ足すと、鳳は眉をつり上げて食いかかった。
「あーもう、そうじゃなくて!あんた、私をからかってるの?」
「なんで?」
 涼しい顔で聞きかえす桜に、おちょくられて(と彼女は思っている)非常に不愉快な鳳は地団駄を踏むが、突然なにかひらめいたようににやりと笑った。
「ただの友達、ね。いいわ。じゃあ今夜、私がりんねと組んでもいいでしょ?そしたらあんたは十文字と組むことになるけど」
 桜が彼女をちらりと一瞥した。さすがにこれには異論をとなえるはず、という鳳の予想はけれどまたしても外れ、
「いいよ、べつに」
 さらりとそう言って桜はうなずいてみせた。
「あとで六道くんと翼くんに聞いてみよう」
 鳳は拍子抜けした。いよいよ戦意を完全に喪失してしまった。なにを言ってもこの恋敵の調子が狂うことはない。なんだろうこの、暖簾にひたすら腕を押しているような感覚は。
 かたわらで、ドレスを物色していた桜の手がいつの間にか止まっていたが、悩める少女は気づかない。




To be continued
 
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