夜宴 - 1 -




「真宮桜、折り入ってひとつ頼み事があるんだ」
 放課後話があるというので、日直当番の仕事を終えた桜がクラブ棟を訪れるや、彼はこう切り出した。
「頼み事?どんな?」
 畳の上で彼と向き合って座りながら桜が先をうながすと、りんねは早速事情を説明し始めた。
「今朝架印が来て、堕魔死神についての有力な情報を聞いたんだ。奴らは今夜大勢で集まって、人間界(こっち)で集会を開くつもりらしい」
 彼は渋柿をくったような苦々しい顔で、
「まったく、あのくそおやじは一体なにを考えているんだか……」
 恨みがましくこうつけ足すが、本筋からそれないように話を戻した。
「架印は奴らを捕まえるために仲間を連れてくるそうだが、その前にまず誰かが様子を見てきたほうがいいと言っていた。つまり俺に潜入調査をしろということらしい」
「潜入調査…」
 それが死神の常套手段らしいことを知る桜は、なるほどと頷く。聞くところによると架印は様々な策をめぐらせているようで、堕魔死神を憎んではばからないあの記死神が、これを機に徹底的に彼等を取り締まるつもりらしいことがうかがえた。
「まあ、架印はまだ俺を疑っているからな。あわよくば俺がぼろを出して、堕魔死神の奴らと一緒に捕まればいいとでも思っているんだろう」
 りんねは肩をすくめ、それから居住いを正した。
「それで、お前に頼みたいことというのは、俺と一緒にその集会に来てくれないかということなんだ」
「堕魔死神の集会に?べつにいいけど…なんで私?」
 人間の私で役に立つのかなと小首を傾げる桜に、りんねは少し照れた様子を見せた。
「その集会というのが、パートナー同伴でないと入場できないらしい」
「パートナー…って、ダンスでもするの?」
 冗談のつもりで桜はいったのだが、りんねは否定しなかった。
「ドレスコードもあるらしいから、そうかもしれないな」
「ドレスコード?」
 桜は珍しく驚きを露わにした。
「私、フォーマルな服なんて持ってないよ」
「俺もだ。だから架印に調達してこいと言ったんだが、あいつにもそんな余裕はないからな。今、六文がおばあちゃんのところになにかないか聞きに行ってる」
 しかしこの問題は案外あっさりと解決することになる。
 死神界(むこう)で話を耳にしたらしい鳳がクラブ棟に乗り込んできて、彼女も潜入調査に加わることを宣言した。りんねが既に桜をパートナーに選んでいたとあって多少のごねはあったものの、結局は下校途中だった十文字翼を引っ張りこんできて、彼とパートナーを組むことに妥協した。
 それから三人を自身の豪邸に連れて行き、余りある数のフォーマルタキシードやドレスのコレクションを見せて、彼等を驚かせたのだった。






To be continued

 
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