糖分は好きだ。空腹で鈍くなった頭がよく回るようになるから。
「りんね様ーっ、今日は百葉箱に豪華スイーツが入ってましたよ!」
 放課後クラブ棟で黙々と造花づくりに従事していたりんねは、黒猫が嬉々として運んできたこの吉報に目を輝かせた。
「本当か、六文?」
「はい!見てください、夢の高級品・チョコレートですっ!」
 安物のチョコレートをまるで神の恵みだとでも言わんばかりに、感激を分かち合う主従を横目に、依頼の手紙はそっちのけねと、完成させた造花の出来栄えを確かめながら桜はすこしだけ笑う。
 早速透明フィルムをはがして、チョコレートのひと粒を口に放り込むと、六文は頭の先から花でも咲かしそうな表情になって、
「はあ〜…ほっぺが落ちそうです、りんね様」
 安物のチョコレートにこれまた大袈裟な反応をとってみせる。
 そうかよかったなとりんねは頷き、自分がひとつつまむ前に桜に勧めてみるが、私はいいよと言って彼女は受け取らない。
「六道くんと六文ちゃんで食べて?」
 にこりと笑って、すっかり手馴れた様子で新たな造花をつくり始める。
 やはり気を遣わせているのかな、と思いながら、彼女を見詰めたままりんねがぼうっとしていると、六文はその手元から幾つかのチョコレートを掠め取り、にやにや笑いながら後ろをむいて、次の瞬間にはいずこへと姿を消した。
「あれ?六文ちゃん?」
 またひとつ造花を完成させた桜が、ふと気付いて部屋の中を見回すが、黒猫の姿はどこにもない。
「六道くん、六文ちゃんがいないよ」
 ぼうっとしたまま、色々と考え込んでいたりんねは、肩を揺すられたことに驚いて、持っていた包みを落としてしまう。
「うわっ」
 たちまち、チョコレートはあちこちへ転げてしまい、もったいないことをしてしまったと彼は肩を落とした。
 けれど桜は、自分のスカートの上に落ちたひと粒を見付けると、くすっと笑いながら、磨膝でりんねの元へ近づき、
「目を閉じて、六道くん」
「……え?」
 掌で彼の視界を遮った。
「ま…真宮桜?」
 一瞬りんねは何が起きたのかわからなかった。甘いチョコレートの味が広がったと思ったら、唇にとても柔らかな感触を覚え、驚いて思い切り後ずさると、目の前の彼女は笑いながら唇をぺろりと舐める。
「どうしたの?六道くん」
 白々しく、けれどすこしからかうような口調で、そう尋ねてくる桜に、彼は頭を抱えて煩悶した。
 甘いものを食べると、頭がよく回るようになるはずなのだが、今日ばかりはそうもいかないようだ。



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