死神には嘘も方便というのがりんねの持論だ。
「成仏できない霊をあの世に導くためには、やむを得んときもある」
「そうだよね。きっと、知らないほうがいい真実だってあるもんね」
 死神の少年はゆっくりとうなずく。
「幽霊は死んだ瞬間から時を止めるが、生きている者はかわらずに時を刻んでいく。同じ場所にはいられない。だから幽霊が生きている者にかける望みというのは、叶わないことの方がはるかに多いんだ」
 そんな望みを、嘘に嘘を塗り固めてでも叶えて──あるいは叶ったように錯覚させてやるのが、死神の仕事だ。
「小さい頃からおばあちゃんの仕事を見てきたからかもしれんが、気付けば自然とそう思うようになってた。死神というのは、時には誰かのために嘘をつかなければいけない存在なんだって」
「ふーん。誰かのための嘘、かあ」
 桜はとなりの少年を見つめながら、目のきわを細くして、
「……死神って、やっぱり優しいんだね」
 あるかないかの声でつぶやいた。
 


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