トラブルメーカー


 ただで手に入れただけあり、彼の黒猫は優秀とは言い難い。むしろ粗野な振る舞いが災いして問題ばかり引き起こしている。死神の彼を補佐するどころか、彼の面倒を増やしている。
 しかし架印は鈴を鬱陶しいと思ったことはただの一度も無かった。役立たずな黒猫だと失望することも、みかん箱に入れて再び路傍に捨てて来てやろうかと思ったことも。
 出来の悪い子ほど可愛いという心理だろうか。
 それも少しはあるが、何よりも鈴は、架印にとってただの主従関係で結ばれた黒猫ではなかった。
 彼女は彼の掛け替えのない家族だった。
 その時々が楽しければそれでよしと、後先考えず気楽に散財する性質の母と同様、守るべき大事な家族の一員だった。
 どうしようもない家族だが、架印はそんな面々と暮らしているのも案外悪くないなと思う。浪費家の母のせいでいつまで経っても生活のうだつが上がらずとも、トラブルメーカーの黒猫のせいで仕事が倍に増やされようとも。
 自他に対してひじょうに厳格な性質である彼に、彼女達は楽しんで生きることを教えてくれる。時には肩を抜くことも、声を上げて笑うことも、欲しいものを自分への褒美に与えることも大事なのだと。
「架印さまー!お茶が入りましたよー」
 そんなことを考えている側から、鈴がティーセットをトレイに乗せたまま盛大にすっ転び、カーペットに紅茶をぶちまけた。
 眼鏡を机上に置き微かに溜息をつきながらも、焦って一生懸命にカーペットを拭く鈴を見ていると、やはり叱る気など微塵も起きず、僕も随分と丸くなったものだと架印は苦笑し、ティッシュボックスを掴んで立ち上がった。



end.

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