絹の糸


「殺生丸さまのおぐしって、本当に綺麗……」
 櫛の間に銀糸の髪を通しながら、りんが憧憬も露わにため息をついた。一切くせのない髪は、わざわざ櫛で梳かす必要など皆無なのだが、こうしてりんがやけに触れていたがるので、殺生丸は好きなようにさせていた。
「りんなんて、ちょっと伸びたらすぐ枝毛になっちゃうよ。毛先はあちこちにはねてるし」
 と頬を膨らませながら、殺生丸の肩越しに鏡面を覗き込むと、鏡越しに彼が微かに笑いかけてきたので、りんはとびきり甘い南蛮菓子でも食べたように、うっとりと頬を緩ませた。
「殺生丸さまを見てるとね、お人形さんを見てるみたいって思うの。生きてるお人形さん」
 彼の肩に顎を乗せてりんがつぶやくと、殺生丸は不思議そうに三度瞬きをした。他の者がそのようなことを口にしたならば瞬殺だっただろうが、愛しい新妻が言うことであればなんであろうと愛らしい。戦国一の大妖怪も恋には眼を曇らせるものなのだろう。
「言葉にはたましいが宿るって楓さまが言ってたよ。だから、綺麗なものには毎日『綺麗』って言ってあげると、もっともっと綺麗になっていくんだって」
「……そうか」
 殺生丸は振り返って、りんを抱き寄せた。りんは子どものようにその広い胸に甘えた。湯浴みを終えたばかりの互いの身体はほんのりと温かく、簾越しに吹き抜ける夜風が肌に心地よかった。
 そのまましばらく蟋蟀の調べに耳を傾け、やがて共にまどろみに落ちた。



end.

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