His Magic


 杖を床に落として、足で手の届かないところへ追いやると、ドラコは喉の奥で笑った。
「君を落とすのに魔法なんか要らないね」
「あら…随分と見くびられたものね」
 ハーマイオニーは内心の動揺を悟られぬように低い声で囁いた。見くびってなんかないさ、とドラコはまた一笑し、壁に押し付けた彼女の足の間に膝を押し入れる。
 彼女は目を丸め、ドラコの肩を押し返そうとした。が、女の力ではびくともしない。こめかみに冷や汗がにじむ。
「何考えてるのよ、あなた」
「何って、だから君を口説き落とそうとしているんじゃないか」
「冗談はやめて。真面目に答えてよ」
「……大真面目なんだけどな」
 ドラコは、波打つ髪のひとすじを手に取ると、そっと唇を押し当てた。
「グレンジャー、君はウィーズリーにフラれたんだろう?」
「なっ……!」
 ハーマイオニーは羞恥と怒りに頬を染めた。拳を振り上げると、ドラコはその手首を掴んで壁に押し付けた。至近距離で目が合うと、まるで開心呪文をかけられたように、押し込めていた悲しみが心から溢れ出してきそうで、彼女は息が詰まった。
 失恋の傷をなぜこんな男に抉られなければいけないのか。あまりの悔しさに涙を浮かべうつむく。
「……あなたには関係ないでしょう」
「あるさ。君のことなら何でも」
 ドラコの声色は柔らかだった。不覚にもハーマイオニーの心が打ち震えるほどに。
「僕のところにおいで。二度と「穢れた血」なんて呼ばないから」
「……」
「大事にするよ。君を傷付けてばかりの奴のことなんか、忘れさせてあげる」
 ハーマイオニーの頬を涙が滑り落ちた。彼女はそれを拭おうともしなかった。
 大人しくなった彼女の、頬のなだらかな輪郭を指先で楽しみながら、ドラコは薄い唇を横に引いて微笑んだ。



end.

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