Room of Red 西向きのこの部屋には夕焼けがとてもいい具合に差し込む。 コーヒーカップを片手に窓際で夕日を浴びながら、わたしは西のはるか彼方を望んだ。 ゆらゆら揺れる太陽がゆっくりと地平線に落ちていく。 ……わたしは一日のうちで夕刻が最も好きだった。 霊界と俗界をつなぎ、この世ならざるものをこちらへ呼び込むこの刻限が。 「千尋」 振り返ればそこに、狩衣に烏帽子をつけた美しい青年が佇んでいる。わたしはコーヒーカップを窓枠に置いて、ゆっくりと、広げられた腕の中に吸い寄せられていく。 「今日も逢いに来たよ」 「……嬉しい。ハク」 夕刻はわたしと彼の逢引の刻限。太陽が沈む間際のほんの僅かな時間、ハクはか細い道を通ってこの部屋へやって来る。 腕の中におさまると、抱き締められる感触はあるのだけれど、ぬくもりはやはりなく、頬を寄せた胸元はぼんやりと透けていた。 それでもハクは優しく微笑む。在りし日と同じ表情で。罪を贖った時のように、赤い光を全身に浴びて。 end. back |