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類似
ヨコ直


 気に入らない。あの女の何もかもが。
 だったら徹底的に無視してしまえばいいと思うのだが、そうできないのがそもそもの問題だ。
 視界に入るたびに憎らしく思っているはずなのに、何故構わずにはいられないのだろう。

「……ヨコヤさん?」
 重たそうな買い物袋を両手に提げた直は、元々大きい目を零れんばかりに見開いた。呼ばれた男は大儀そうにポケットから片手を出して、最低限の会釈のつもりなのか、小さくその手を振ってみせる。
「何してるんですか、こんなところで」
「僕が普通に散歩をしていたらいけませんか?」
「そんなこと言ってませんけど…」
 直は微妙な顔をしている。
「もしかしてお家、近いんですか?」
「さあ、どうでしょうね」
 そこで会話はぷつりと途切れた。顔見知りとはいえ、親しい間柄であるわけでもなく、むしろ敵同士の二人である。偶然道端で会ったからといって、暢気に会話を楽しむことなど出来るはずもなかった。
 直は居心地悪そうに足元を見下ろした。特売日の戦利品がぎっしり詰まった買い物袋がこのうえなく重いので、早いところ帰路につきたかった。しかしヨコヤの突き刺さるような眼差しが、まだここに留まることを強要しているかのようで、またその視線から逃げるのも何となく癪にさわるようで、足が動かなかった。
 ヨコヤの視線が直の買い物袋に落ちた。
「また随分と買い込んでいますね。重そうだ」
「き、今日は特売日だったから、つい買いすぎちゃったんですっ。いけませんか?」
 突っかかるように言う直に、そうは言ってませんが、とヨコヤは微かに笑った。そして、その遣り取りが先程のものとよく似ているのに気付いて、直の口角がぴくっと攣った。
「僕達は、案外似た者同士なのかもしれませんね」
 とヨコヤが俯きながらいった。直は明らかに不服そうに眉根を寄せた。
「どこがですか。私はヨコヤさんみたいに狡くないですし、嘘をついて人を貶めたりしませんよ」
「あなただって、ライアーゲームで嘘をつくようになったではありませんか。アキヤマに影響されて」
 一瞬直は言葉に詰まったが、士気を高めるように、ヨコヤの方へ一歩踏み出した。
「でも私、人を貶めるための嘘はつきません。絶対に!」
「だとしても、嘘は嘘です。嘘に善も悪もないのでは?」
「あ…あります!」
「どの嘘も人を騙すことには変わりありませんよ。それが善と言えますか?」
 同じような問答を十分ほど続けたところで、直が疲れたように肩を落とした。
「……ヨコヤさんには口で勝てる気がしません」
「なら僕も、あなたには気力で勝てる気がしませんね」
 二人は顔を見合わせた。直は、ヨコヤの口元が微かに緩んだのを見逃さなかった。
「さっき、私とヨコヤさんが似た者同士って言いましたよね」
 通り過ぎていく車を眺めながら、直は目を細める。
「確かにそうかもしれませんよね。なんだか私達、二人とも物凄く意地っ張りみたいだから」
 ヨコヤは片眉をぴくりと動かした。そして喉の奥で笑い、彼女が見ている方向へ視線を向けた。
「まあ、そういうことにしておきましょう」
 


end.


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