14th of February - Case of DRACO & HERMIONE -



 ドラコはビニールハウスに囲われた植物園の中にいた。マンドレイクなどの得体のしれない不気味な魔法植物達が鉢に植えられ、几帳面に並べられている。通り過ぎざま、薄気味悪い鳴き声らしき音を発する植物もある。その一角に、目当ての植物があった。
 杖を取り出し、ドラコは呪文を囁いた。植物が独りでに鉢から抜き取られ、付着していた土が払われ、漸く差し出された手の内に収まった。この貴顕紳士は、土に触れるのを厭ったのだった。
 鉢からくすねた植物を眺め、ドラコは満足気に瞳を細めながら微笑した。そしてもう用はないとばかりに踵を返し、軽やかな足取りで植物園を後にした。
 

 その日の朝食中に、大広間に一斉に届いたふくろう便の中には、花束やプレゼント箱といった華やかな贈り物が数多く混じっていた。バターが程良く溶けたトーストを齧りながら、ロンが不思議そうに首を傾げた。
「誰かの誕生日かな?でもあんなにプレゼントを貰えるなんて、よっぽどの人気ものだなあ」
 無知で脳天気な親友の言葉がツボに入ったのか、ハリーが飲んでいたかぼちゃジュースを気道に詰まらせた。だが彼は生粋の魔法族の出なので、今日という日が非魔法族にとってどんな日であるのかを知らないのは当然のことである。涙目になって噎せながらも、親切に講釈してやった。
「あのね、ロン。今日はバレンタイン・デーっていう日なんだ」
「バレンタイン・デー?なんだいそれ、面白そうな名前だね」
「マグルのお祭りみたいなものさ。男子が女子に花とかチョコレートを送って、愛を告白するんだよ。国によって色々違ったりするらしいけど」
 へえ、とロンが目を丸めた。
「じゃあ、マグルの男子は今日が正念場だな。好きな子に告白する日なんだろ?」
「まあね。でも、奥さんや恋人に愛を確かめる日でもあるんだよ」
 ハリーはにっこりと人のいい笑顔を浮かべて、ロンを挟んで座るもう一人の親友の顔を覗き込んだ。
「そうだよね?ハーマイオニー」
 ナイフとフォークで切り分けたベーコンエッグを無駄のない所作で口元に運んでいたハーマイオニーは、口元を手で押さえながら微笑み返した。
 その時彼女のもとに、一羽の漆黒のふくろうが舞い降りた。嘴に一本の真紅の薔薇を銜えている。彼女はそれを受け取って喉元を撫でてやり、顔を寄せて何かを囁いた。ふくろうは言葉を解したかのように一鳴きし、差し出された彼女の指を甘噛みすると、羽根を広げて擬似天空の彼方へと飛び去っていた。
「そ、それっ、誰から……?」 
 ロンが目を剥きながら、薔薇の花を指差した。衝撃を受けているようだった。
 ハーマイオニーは大切そうにそれを胸に寄せ、瞑目しながら微笑んだ。
「さあ、誰からかしら。宛先がないから、わからないわね」
 離れたテーブルから、ひとりの少年が彼女の方へとさり気無く視線を流した。全く同じタイミングで、彼女も彼を見た。
 ふたつの視線がほんの一瞬だけ、人々の間を通り抜けて絡まった。少年と少女の口元に、同じ微笑が浮かぶ。
 その秘密の遣り取りを知る者は、他に誰もいない。




end.

2012.02.14 Valentine's Day

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