桃 弓 古来より、桃の木でつくった弓は災いを祓うとされ、赤子の誕生祝いとして贈られる風習もあるという。 それはおそらく、桃が不老長寿の縁起物と信じられたためだろう。 「ねえ犬夜叉。誰がこの弓をくれたのかしらね?」 我が子を抱く姿が日増しにさまになりつつある半妖の夫。その肩にもたれかかりながら、巫女は手慰みに弓の弦を鳴らしている。 ーー赤子が産声をあげた夜、春の彼岸のその宵に、戸口に立て掛けてあった目新しいその弓は、村の誰のものでもなかった。 「きっと、優しい人が置いていってくれたのよね?」 「ああ」 「自分のことみたいに、私達の幸せを願ってくれる人」 「ーーそうだな」 かごめが弦を鳴らすたび、そのあふれんばかりの霊力がはじけ、清浄な夜気はいっそうすがすがしいものとなる。 犬夜叉は、その澄んだ空気をよく知っているーー。 「ねえ。明日は、お墓参りに行こうか」 お礼をしにいかなくちゃ。 懐かしい面影が、その優しい笑顔に重なった。 |