交差するただその一点に


 輪廻の輪の流れに乗る彼女を見送り、三途の川を渡ったところでふと、上空にとどまったまま、りんねは自分の掌を見下ろした。
 彼女の手のぬくもりはまだ残っていた。何十年もの間、欲しくて欲しくてたまらなかったぬくもりがかき消えてしまわないように、りんねはその手を強く握り締める。
 死神である彼は知っていた。輪廻の営みをあずかる流れをさすらい、再び転生したものが、前世と縁(えにし)のあった人間と出逢うことのできる確率は、限りなく零に近いということを。
 余程強い縁で結ばれた人間同士でなければ、邂逅することは困難なのだ。その上、転生をする際に前世の記憶を持っていくことはできず、それは輪廻の流れの畔に置いていかなければならない。
 けれど、何度でも出逢おうという約束に、嘘はなかった。小指をからめて交わした約束が、きっといつの日か二人をたぐり寄せてくれると信じていた。
 りんねは背後を振り返る。まなざしの先には、幽界の天空にうかぶ輪廻の輪。いつの日だったか、遊園地に行ったとき仰ぎ見た、あの観覧車にも似た輪。
 途端、りんねは喉元を抑えて不吉な咳をした。姿かたちは若人のそれだったが、同い年だった彼女と同じ分だけ年はとっていた。
 混血のりんねは死神ほど長生きすることはできない。残された余生はもう長くないことを、彼は悟る。
「……次に生まれ変わるときは、お前と同じ人間になれたらいいな」
 滲んだ涙を手の甲でぬぐって、りんねは微笑んだ。

 強くならないと。いつか交差する道の先で、また「彼女」と出逢ったときに、みっともない泣き顔を見せなくてすむように。
 人生の終わったそのまた先で、真宮桜は自分を待っている。



end.
(続「約束」)

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