命をし全くしあらば球衣のありて後にも逢はざらめやも - 8 - | ナノ

命をし全くしあらば球衣のありて後にも逢はざらめやも 8


 ──あの方は本来であれば、四百年前に亡くなるはずの方でしたので。
 続く黄金の話に耳を傾けながら、かごめは衝撃のあまり言葉が出なかった。
 時が二人を引き離して以来、あるべき時の流れに否応が無しに押し流されながら、かごめはいつも心の奥底で犬夜叉を想ってきた。犬夜叉ならきっと、生き延びて五百年後の自分に逢いに来てくれるはず、と強く信じていた。いつの日か、彼が五百年前よりもほんの少し低くなった声で彼女を呼び、ほんの少し大きくなった手を差し伸べてくれる日が来ることを、待ち望んでいた。
 けれど、理想と現実はあまりにもかけ離れていた。四百年前、見知った人々が老いて果てていった矢先、強敵に見(まみ)えて死闘を繰り広げ、たった一人で死線を彷徨ったという犬夜叉。死闘の果てに守りの牙を失い、心身ともに疲弊して、生きる意味すら見失いそうになった。
 風前の灯火だった命を救ったのが、黄金と白銀だった。彼等に勧められ、死した犬の魂を喰らうことによって命を長らえた犬夜叉は、遥か彼方を生きる彼女にいつの日か逢いに行くことに、生き延びる意味を見出した。
 ──生きてさえいれば、いつか必ずかごめに逢えるはずだ。だから、俺は生きる。
 狗魂を喰らうごとに、自己が損なわれていくことを知ってもなお、犬夜叉は生きる意志を捨てなかった。過去を忘れても構わないと彼は言った。例えそうなったとしても、いつかかごめに逢った時、その未来で全てを取り戻すから、と。
 時は流れた。長く続いた戦乱の世が幕を閉じ、平安が訪れるまでの間に、犬夜叉の銀髪は身の丈を越すほどに伸び、記憶は火鼠の衣の色と共に褪せていた。何を待っているのか、何故その存在を待たなければいけないのかを忘れた犬夜叉は、次第に愛情を履き違え、彼女に憎しみを抱くようになった。
「あなたへの強い思いが、あの方の生きる活力なのです。四百年前に御命を救って差し上げたあの日から、今日まで。……そして恐らく、これからも」
 黄金は静かにそう締め括った。俯いて大粒の涙を溢すかごめを見詰めながら。






To be continued... 

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