暁のヨナ | ナノ


▼ 再会【ハクヨナ/大将軍5】

(*「大将軍」シリーズに連なります。)

 国王に継嗣が生まれた。
 空都からもたらされた吉報は、またたくまに高華国を祝福の渦へと巻き込んでいった。
 緋龍城では皇子の誕生を祝う盛大な式典が催された。スウォン王は各部族から諸侯を招き、祝いの品々を受け取り、生まれたばかりの御子を顔見せした。皇子は父王の生き写しで、玉のような愛らしさを部族長達は口々に称賛した。
 その時にも、王妃の玉座は、やはり空席のままであった。
 国王によれば、その座につくべき人は、彼のもとから去ってしまったのだという。
 ゆえにこの先、その玉座にあるじを迎えることはないだろう──と。その名において、国王は宣言した。
 若き王の寵愛を一身に受けながらも、王と婚姻を結ぶことを拒み、出産の後には城を出て行ったという、皇子の生母とはいったい誰なのか。
 さまざまな憶測が国中でまことしやかに囁かれたが、その答えは皇子が名づけの儀式を終えた後も、杳として知れぬままであった。

「大将軍が、こちらへ赴任されるそうです」
 風の部族領、高華軍駐屯地。
 王城からの突然の伝達に、ひとり鍛練に励んでいた若き将軍は目を見開いた。
「何?大将軍だって?」
「はい。陛下よりお伝えするよう、言づてを預かって参りました。ハク将軍には副将として、四将とともに大将軍を補佐するように、との仰せです」
 ハクは怪訝な顔で、跪き顔を伏せたままの伝令を見おろした。
「俺は聞いてねえぞ、そんなこと」
「突然の決定でしたから」
「その大将軍とやらの名は?どこの部族出身だ?」
 俯いたまま、伝令がくすりと笑う。
「──まだ、気が付かない?」
 覆面を取ると、相手の声質ががらりと変わった。
 それは確かに聞き覚えのある、耳をくすぐるような甘い声。
 まさか、そんなはずはない。
 恋しく思うあまり、とうとう幻聴を耳にするほどになったのか、と。自分に呆れて、思わず力なく首を振る若き将軍に向かって。
 伝令が美しい顔をあげ、そっと微笑みかけてきた。
「久しぶりね、ハク」
 星のように輝く瞳が、喜びを湛えて彼を見つめ返してくる。
 幻聴の次は幻覚が見えてきたようだ。夢だけでは飽き足らず、なんとも浅ましいことだ。寝ても覚めても、その人は彼の心に気高く君臨し続ける。彼に微笑みかけ、彼の名を呼び、彼の心をこんなにも熱く震わせる。
 まぼろしなら触れてもかまわないだろう、独り占めしても罪にはならないだろう──と。
 誰にともなく言い訳しながら、心のおもむくままに、将軍はその人を強く掻き抱くのだった。



------
Twitter・気が向いたら書くリクエスト
「『大将軍シリーズ』の続き」




[ ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -