暁のヨナ | ナノ


▼ 月白【ハクヨナ】

 東の空が白みがかっている。
 それはじきに、月が現れるあかし。
「黙って抜け出してきてしまったわ。みんな、私達のことを捜しているかしら?」
 ハクは姫君の肩を、そっと自分の方へ抱き寄せる。
「戻りたきゃ、別に戻ってもいいんですよ。姫さん」
「──言ってることと、やってることが違うじゃない」
「──戻ってほしい、とは一言も言ってません」
 ふふ、とヨナは笑う。彼の心をいたずらに擽る可愛らしい声で。
「秋の夜は、ハクの色ね」
「なんですか?それは」
 姫君は、甘えるようにハクの肩に頬を寄せて、白く輝く夜空を指差した。
「ほら。そろそろ月が顔を出しそうな、あのあたりよ」
「おお、本当だ。俺の心のように真っ白じゃないですか」
 おちゃらけて言えば、じと、とヨナの視線が斜め下から突き刺さる。
「──でも、その周りは真っ黒よね。暗黒龍みたいに」
「心外だな。俺の心が真っ黒にけがれているとでも?」
「違うの?」
「……姫さん。そんな意地悪なこと言ってると、本気で襲いますよ」
 ヨナの顔が暗がりでもはっきりと見て取れるほど赤くなる。
 想いを確かめ合った今、彼女とは、従来の主従関係を越えた強い絆で結ばれている。
 思いを遂げる日も、そう遠くないのではないか。
「ここには誰もいない。俺とあんた、二人だけ──」
「ハ、ハク……」 
 姫君の唇に、人差し指を押し当てる。
 ハクはそれらしい表情で、じりじりと彼女に迫るが──唇と唇が触れそうな危ういところで、どうにか思いとどまった。
「すいません。冗談です」
 にやりと笑って、はぐらかす。
 火を噴きそうな顔をしていたヨナは、案の定、柳眉を逆立てた。
「そ、──そういうところが、真っ黒だって言っているのよ!」
 雲の向こうから姿を現した月が、冴え冴えと二人を照らし出す。
 あなたの前で、真っ白な心のままでいられたことなんて、ただの一度もありませんよ──と。
 言ってしまいたくなる雷獣であったが、これ以上警戒されてはかなわんと、茶化した笑顔の裏で平常心を保つのだった。






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