暁のヨナ | ナノ


▼ 星願 【キジャ+ヨナ】


「キジャはあの星に何を願ったの?」
 白皙の青年はひとつ瞬きをして、流星の残像から隣の少女へと視線を移す。
「姫様はどのようなお願い事を?」
「私?私はね……」
 内緒話をするように、ヨナは声をひそめた。花の唇がキジャの耳元に触れそうなほど近く寄せられ、彼はにわかに胸騒ぎをおぼえる。
「『この夜空の下にいる人々が、いつまでも平穏無事に暮らせますように』」
「それはまたーー。なんとも、姫様らしいお願い事ですね」
「ーーあの星は、私の願いを叶えてくれるかしら?」
「姫様の望みを聞き入れぬ星など、この夜空のどこにもありますまい」
 間近に拝する笑顔が目に眩しい。思わず睫毛を伏せる彼に、ヨナは屈託なくたずねてくる。
「さあ、今度はキジャの番よ。あなたのお願い事を聞かせて?」
 キジャはそろそろと上目遣いに主の顔を窺い、羞じらう乙女のようにほのかに頬を染めてまた俯いた。
「私の願いは、口にすることさえ畏れ多く、はばかられてなりません……」
 ヨナが至極残念そうに眉を下げる。端整な顔を曇らせ、彼は罪悪感に息を詰まらせる。従者たるもの主を失望させてはならないのだ。主が望まれるのなら、いかなるものも差し出さねばならぬ。
「どうか私の不忠をお許しください。姫様のことを、ーー抱き締めたいなどと、願いました」
 彼女は目をみはった。反応が返ってくることが空恐ろしく、やはり言うべきではなかったとひどく後悔する。
 いつであったか、白龍の鱗を騙る惚れ薬を飲み、尊き主に無礼を働いたことがあった。
 四龍としての自覚が、あの時の軽率な振る舞いを責め立てた。
 しかし、己の心を戒めることはついぞかなわなかった。
 ーー姫様を抱き締めたい。
 いかに不敬であろうと、許されざることであろうと。それはまぎれもなく、彼が心に抱いてやまぬ、切なる願望なのだ。
「どうしたの?ーーひょっとして、里が恋しくなった?」
 ヨナの声は優しく、そっと肩に置かれた手は気遣わしく、彼の目に涙を誘うほど好ましいものだった。
「姫様……」
「ああ、泣かないで。大丈夫よ、誰にだって心苦しくなる時はあるの。ーーおいで。寂しくならないように、私がキジャを抱き締めてあげる」

 ーー里ではなく、あなたのことが恋しくて、胸がこんなにも苦しいのです。
 たとえこの口が裂けようとも、決してそのようなことを伝えはしまい。
 なぜなら私は白龍だから。
 緋き王をお守りする、四龍の戦士に過ぎぬのだから。








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