るろうに剣心 | ナノ


▼ 百年起請 【剣薫】

 薫は下顎を少し引き、目を伏せながらはにかみ笑う。
「なんだか、今日はへんな感じ。……剣心の顔が、まともに見られないわ」
 頭上のしだれ柳が水辺の微風にさやさやとそよぐ。薫の撫肩にやわらかく降りかかり、肩の曲線をなぜるように揺れる柳の影。木漏れ日が、はにかんで俯向くその横顔をいっそう眩しく際立たせる。
 剣心は、その頬や肩に触れたいと思うが、──反面、明日には己の花嫁となるこのいとしい娘を、今しばらく、ただこうして手を触れずに賞翫しょうかんしていたくもあった。
 気まずさに視線を落としていた薫が、ちらりと流し目を送ってくる。そのまなざしはどこか恨めしげである。
「……やっぱり余裕なのね。剣心は、ずるいわ」
 ひたと古拙の微笑を浮かべた彼が、小首を傾げて問う。
「ずるい、とは?」
「だって、私をこんなに落ち着かなくさせておいて、自分はそうやって、平気な顔をしているんだもの。本当に、ずるい……」
「余裕など、拙者にはござらんよ」
 薫殿、と呼ぶ声が、今日は殊更に万感をこめて深く響いた。彼は薫の肩をそっと抱き寄せ、淡く色づく頬に掌を添えた。その口もとからあの穏やかな微笑は消え、かわりに切々とした想いが堰を切ってあふれ出す。
「こうして隣に座って、薫殿を見つめて、薫殿に触れて──。拙者は平気でなど、いられぬよ。このまま百年もこうしていられるならよいが、人の一生は短い、きっと、せいぜい数十年ほどしか薫殿の側にはいられない。ならば、今この瞬間、一寸たりとも離れていたくないのでござるよ。
 ──目を離すことさえも、今の拙者には惜しい」
 





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