るろうに剣心 | ナノ


▼ 有り明かし 【剣薫】

 夜目で針の穴がよく見えない。きちんと糸が通っているのやら、いないのやら。
 眠れぬ夜はこうした手仕事で時をやり過ごすに限る。いずれやらねばならないことならば、決して無駄にはならないのだから。
「──ところで薫殿。嫁入り前の娘御が、こうして男の寝所に忍んでいるのは、いかがなものでござろう」
「そんなこと気にするんだ? 剣心でも」
 繕いものに針を刺しながら、薫は気もそぞろに返した。
「薫殿も少しは気にした方が……」
「私? 私は別に気にしないわよ」
 だって、剣心だもの。
 悪気なく口にしたことだが、どうやら相手は真に受けたようである。彼にしては珍しくやや不機嫌なような、拗ねたような顔をしている。
「薫殿、そうやって、あまり拙者を買い被らぬ方がいい」
「どうして」
「薫殿は忘れているようだが──拙者とて、男でござるよ」
 糸切り鋏を裁縫箱から取り上げながら、薫は思わず微笑を浮かべた。
「何かまちがいがあるかも、ってこと?」
「……無きにしも非ず、と言ったら?」
「そうね。その時には」
 おどけて返しながら、繕い終えた父のお古の羽織を、剣心の肩にかけてやる。不意をつかれた彼の顔が、仄かな明かりに揺れさざめいた。
「ちゃんと責任、取ってもらわなくちゃね」





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