▼ 初雪 【縁】
通りがかりの辻馬車が急停車した。はてと馭者の首を傾げる様子を見るに、どうやら乗客の気まぐれらしい。その客はというと、馬車の窓に頬杖をつきながら、民家の門前で竹馬遊びに興じるひとりの少女を眺めている。
「……おい、そこのちび」
少女が手招きに応じた。客はしばらく人形のように愛らしい笑顔を見下ろしていたが、ふと手を伸ばしてその小さな頭に触れた。
「おじちゃん、誰?」
「そういうお前は、緋村の家の子だな?」
──路子、と家の中から呼ぶ声がした。
はあい、と振り返りながら返事をする少女のぬばたまのかむろ頭に、男は着ていた背広をふわりとかぶせかけるようにする。
「おじちゃんの髪、雪が積もってるよ。……寒くない?」
男は雪のにじむような笑みを浮かべた。