「いろは。はやく帰れましたしどうせなら、僕たちの家にきて崩子に会っていきませんか?」


ぼくの家に着いたとき、萌太くんは唐突に言った。少し遅い時間だけど、例え遅く寝てもぼくが寝過ごす心配はない。だってどんなに眠くたってひとしきくんとかが見事に起こしてくれるって知ってるからね。まったく傑作だよ。てことでお言葉に甘えることにして、荷物をお母さんに預けて、今度は萌太くんが先導して歩く。お母さんが反対しないのか?普段からぼくひとりを残して出張に行く人たちだよ?それに萌太くんがその美少年フェイスにとても素晴らしい笑みでお母さんに話しかけたからね。喜んで送り出してくれたさ。ひとしきくんのときといい、ぼくの母は美少年に弱いとか、って思ってしまうよ。なんて戯言だったね。


「萌太くん、学校には通ってるの?」
「…いえ。まあ《前》と同じように僕と崩子は異母兄妹で、でも《石凪》とか《闇口》なんていう存在はなくて、だけど僕たちは運が悪いんでしょうか?家出しないといけないような環境で、いまこうして飛び出してきた、ってわけです。骨董みたいなアパート、探せば見つかりますよね」
「そりゃまた…随分と似たような生活をしてるんだね」
「いろははまったく違うんですか?」
「ぼくは――」


中学生、13歳。青色には会わずにここまで来てしまったなあ。かわりに綱吉くん獄寺くん山本くんのマフィア組に人識くんミオちゃん出夢くんたちみたいな《二週目》のみんな。ぼくはそんなみんなと《ぼく》と同じように、だけどどこか違って過ごしてきた。それは笑ってばかりいられないこともたくさん有ったけどさ、案外《ぼく》と同じくらいなにかを失って、それでいて手に入れてたんじゃないか、とか思っていたり。つまりはまったく違うよ、ってことで。


「ふうん…ならいろはと僕の関係もちょっぴり変わったりするんでしょうかね?」
「だっていまもう年齢で違うじゃないか」
「うーん、僕が言いたいのはそんな目に見えるものじゃないんですけどねえ……まあわからないならいいんです」
「? 意味深発言は色々と困るから止めようよ」
「ふふ、すみません」


すみません、と謝っておきながら萌太くんはそれ以上なにも言うつもりがないみたいで。ぼくも諦めてそのまま前を向いた。にしても…。


「ぼくは並盛のことあんまり知らないみたいだよなあ…」
「まあこの辺はあんまり使いませんからね。《昔》よりは入り組んでないにしても、迷いますよ」
「でも!ここだけじゃないんだよ…!」


潤さんたちに連れて行かれたあの場所もそうだったしさ。…雲雀さんなんかは絶対全部把握してるんだよ。だって並盛大好きだもん、あの人。あと無駄にミオちゃんとかね、リボーンくんとかね。あの二人はどっかそっくりだからかもしれないけど、まあ綱吉くんが嫉妬しそうな話だ。実際並中でだって盗撮してたあの子のこと、いまだって観られてる可能性はなくはないし。


「……さて、いろは――それともいまはいー兄かな?着きましたよ、僕たちのいまの骨董アパートです」


――驚きで倒れそうだった。
っていうのは戯言だけど、つまりはとても驚いたということに変わりはなくて。まるで骨董品みたいだから骨董アパート。正式名称はわからない。あれがそのままここにあった。――ああ、あそこだ。あそこがぼくの部屋だった、いまにもみいこさんが隣から出てきそうな錯覚すらぼくに伝えてくる。そんなぼくを見て、満足そうに萌太くんは微笑んで、《ぼく》の手をとり《一週目》、彼の彼の妹が住んでいた部屋のほうに足をすすめた。


「驚いたでしょう?いろは」
「驚くなってほうが無理だよ。こんなアパートは、跡形もなく壊されてしまったからね、ぼくも《一周目》の途中から見てないよ」
「そういえばそんなこと崩子が言ってましたっけね。じゃあ存分に懐かしんでください――みい姉も魔女のお姉さんもみんないるわけじゃないけど、ここが骨董アパートの《二週目》だってことはわかりきっているんですから」
「そっか……ってなんか笑うとこ?」
「一応シンプルにしましょうよ」


ぼくと話しながら、萌太くんはナチュラルにドアを開けた。「ただいま帰りました崩子。今日はとても懐かしいお客さんを連れてきましたよ」なんて声をかけている…って心の準備は無しか。
「さあ、」と萌太くんがぼくを中に導いて懐かしさを感じながら入れば、日本人形のような可愛らしさを持つ、とても整った少女。年はいまのぼくと同じくらいだ。彼女は言うまでもなく、ぼくのかわいいわんこちゃん、崩子ちゃんだった。崩子ちゃんはぼくを見た途端に驚愕に目を見開いて「…………お兄、ちゃん……?」と零した。わんこちゃん、こんな姿になってしまったぼくでもわかってくれたみたいだ。いや、まだ半信半疑なのかな。


「――そうだね。元、こんな骨董みたいなアパートの住人だよ、崩子ちゃん」
「………。…!――っ!!戯言遣いのお兄ちゃん!!」
「うん…久しぶりだね、崩子ちゃん」


顔をくしゃくしゃにしながら、勢いよく抱きついてきた崩子ちゃんの頭を撫でて、ぼくはそっと笑った。












人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -