せっかく来てくれた獄寺くんには悪いけれど、ぼくは出夢くんたちが話している間に歩きだして、みんなの前まで足を進める。ちょうど出夢くんの前に、ミオちゃんとひとしきくんを守るように立ちふさがっているみたいだ。「いろはちゃん、」と人識くんが呟く。まあ戯言、結局ふたりに守られるのがオチだろうけど。獄寺くんもダイナマイトを構えて、ぼくの後ろまでついてきた。さて今回、どれだけ平和に終わらせられるかな?一度目を閉じてから、開きこちらの行動を見守っていた出夢くんを見つめる。




「――久しぶりだね、出夢くん。《ぼく》のこと覚えていてくれてるかな?」
「……似てるとは思ったけどさ。んでまさか、とは思うんだけど。アンタ戯言遣いの……」
「うん。その通り、かな。ただしいまは井伊いろは、きみのお仕事の対象の綱吉くんや《殺人鬼》な人識くんのしがないクラスメートの女の子さ」
「――へえ、」


よかった思い出してもらえたようだ。出夢くんなぼくたちにすでに《名乗った》。つまり戯言が通用するんだよ。
出夢くんはぼくの動向を見守る気なのか手をおろした。ぼくが戦闘能力を持っていないと知っているからこその行動。そしてたとえここからひとしきくんや綱吉くんたちから攻撃を受けても彼ならば絶対に対処できるという自信があるからだ。さすが戦闘力だけなら人類最強を上回るかもしれないと狐さんに言わせた存在だ。それを知ってるからひとしきくんは自分から手を出さないだろう。鏡だから、それはわかるよ。もともとミオちゃんは、いくら補正がきいていまの獄寺くんたちよりはある意味強いとはいえ情報担当だ。戦闘になったらこちらが不利、だからリボーンくんもみんなも手を出さないでくれよ。


「出夢くんは、綱吉くんを殺しに来たんだろう?」
「まあねおねーさん。殺し屋が標的のところに来る理由なんてそれだけだろっ?」
「じゃあさ、このままぼくたち昔馴染みに免じて殺さないで帰るってのは、有り得ない?」
「おいおい――なに言っちゃってるんだよおねーさん。僕を誰だと思っている?匂宮の最高の失敗作、《人喰い》の出夢だぞ。頼まれたら誰でも殺す、それが匂宮だ。それを昔馴染みがいたからって殺さないでいたら、信用がなくなっちゃうだろ。この世界、信用がなくなったら終わりだ」


やっぱりダメか。このままだと綱吉くんは殺されるだろう。だけどこういうとき一番に噛み付くと思っていた獄寺くんが静かだ。綱吉くんの右腕を目指していると言ってるだけ、頭もいいし空気もよめる。いい部下になりそうだなってこういうときに限って思うんだから。仕方ない、切り札を出すか。


「でもさ出夢くん。――綱吉くんはミオちゃんの双子のお兄さんなんだよ」「………」
「かたわれがいなくなる痛みは、誰よりもきみが知ってるじゃないか。なのにきみは《親友》であるミオちゃんからそれを奪うの?」
「…それでも、僕は《殺し屋》だからさ………」
「でも――迷っているよね。理澄ちゃんのことを大切に思う出夢くんなら、ミオちゃんの気持ちがわかるから。ならさ、ひとつ、ぼくからとてもいい解決策を提案しようか。出夢くんは信用が大切な誰でも殺す《殺し屋》だ、ここで綱吉くんを殺さないと信用が落ち大変なことになる。だけどぼくたちはそれは嫌だ。信用を落とさず綱吉くんは死なない、それがうまくいく方法がひとつあるよ。――依頼をなかったことにすればいい」


出夢くんにとって別に信用を落とさないためならば、頼まれたら誰でも殺す殺し屋らしく綱吉くんを殺していけばいいだけの話。だけど、その考えに至らないように、戯言でうやむやに。
ぼくたちの話を静かに聞いていたミオちゃんと、リボーンくんのほうをそれぞれ見ていう。


「ミオちゃん、きみならそんなの簡単だろ?」
「ん……まあね。なんなら依頼を消すだけじゃなくて、シンファジスタファミリーの履歴経歴全部消しちゃおうか?サイバーテロリストらしくさ」
「……それは任せるよ。リボーンくん、別に問題ないだろ?」
「いいぞ。どっちにしろいい噂も聞かねえマフィアだ。ボンゴレに手ぇ出したんだ遅かれ早かれ潰されてるぞ」
「よし…。出夢くん、これならどーかな?」
「………ぎゃっはははっ!格好いいねえおねーさん!まわりまでこうやって味方につけて、さすがに僕もアンタは喰えなかったしねっ」
「あ、もしも暴れたいっていうなら人識くん連れて行ってくれて構わないから」
「!! いろはちゃんひでえっ!オレだっていろはちゃんの言うことなら叶えたげてーけど、出夢の相手はキツいって!」
「…、…ふーん。なるほど、ねえ」


ひょいと軽く飛び降りてきて、ぼくの前に歩いてきた。殺気はない、あれだけどなんか違和感。え…ぼくより身長高くない?というより


「い、いずむくん…?」
「おねーさんなあに?」
「あのさ近くない…?」
「いーじゃん、だって僕たち前世でキスまでしちゃった仲だろー」
「!?」
「あ、あぁあああ!?出夢てめーいろはちゃんになんつーうらやましいことしてんだテメー!!」
「ぜろりんともしたじゃん。てことで間接ちゅー」
「それはまったくよくねえ間接ちゅーだっ!」
「ま、まじかよ…………!」
「あ、こっちもかー!ぎゃははっおねーさん!」


ニヤリとひとしきくんと獄寺くんを見て出夢くんは笑った。そしてガシッと肩にかかる重み。あ、手が置かれたんだ、相変わらず力強いな――とか思っていると近づいてきた出夢くんの顔、…唇に感じた柔らかい感触……え?にこにこ笑う出夢くんの顔がすっごい至近距離にあって。えっと、なんかこんなの前世でもなかったっけって、えぇええ?!


「あ………れ?」
「あはっごちそーさん!」
「殺す!!出夢テメーマジふざけんな、絶対ぇお前がオレが殺してやる!表でろ、殺して解して並べて揃えて晒してやんよ!」
「やっほーい!ばっちり写メったよ!いずくん流石ぼくの親友、心のとも!よくやってくれたっあーもうっいずくん×いーくんもおいしいよねこれ!ある意味GL!でもNLでも有り!けしからん、もっとやれ!えへへへへへ…」
「ミオぉおお!?帰ってこーいっ!!」
「…………(呆然として化石)」
「また…ファーストキスを女の子から奪われた……!?」
「え、おねーさんそれ本当?僕すっげぇラッキーってやつぅうう!?」
「まじかよいろはちゃん!くっそオレが奪っとけばよかった!!オレの馬鹿野郎っ」
「…これは使えるな」
「ははっ井伊ってモテんのなー!」


未だに出夢くんはぼくから離れない、人識くんはそれにマジギレしてナイフをいまにも投げようとしている、ミオちゃんは携帯片手にやけにキラキラ輝いてまた意味不明なことを叫んで、綱吉くんはそんなミオちゃんを必死に揺すっている。獄寺くんなんて間近で見たからかポロリとダイナマイトを落としてそのまま固まり、リボーンくんはニヒルになに考えてるかわからない顔でつぶやく、そして山本くんはひとり爽やかに笑っている。はあ、潤さんのときといい、ぼくって油断しすぎなんだろうかな。でも出夢くん、前と違ってぼくは女の子なんだ。中身はともかくこれじゃあ見た目は女の子同士がいちゃいちゃしてるみたいになってるんじゃないかな?(これは戯言か?)



「い、出夢くん……君って女の子、だよね…?」
「ぎゃははっおねーさん。違うって言ったらどーする?」
「はあっ?!いずむおまっ」
「ミオー、いまもう僕への依頼取り消してんだろ?」
「うんもーすぐ終わるよ?簡単すぎて笑っちゃうね!」
「んじゃあ僕がさ、サワダツナヨシを殺すのを止める条件一個追加してもいいよなー?……僕と理澄、ふたりをこの学校に通えるようにすること!特におねーさんの近くでさ。おまえなら簡単だろ。

僕さーやっぱりおねーさんのことすっげぇ気にいっちゃった。前と一緒で僕は心はオトコノコなわけ。僕攻めるほうが好きだから別におねーさんだろうがなんだろうがいいし」


「だから問題なしー!ぎゃははっ」と出夢くんはもう一回ぼくにキスをしてきた。おさえられているぼくには抵抗なんてできるはずはなくて――横で鏡の向こう側がぶちりとキレる音と天才少女がフラグ立ちまくりだあ!萌えるよう!とか叫ぶ音がした。ああもうまったく傑作な展開だよ………!











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