「つーくん、あのねっ」
「ごめんミオっ!後で聞くから、ちょっと待ってて。いってくる!!」


汚れた服を脱ぎ捨てて、慌てて出て行くつーくんを見送ってぼくは口を閉ざす。腕のなかにはもちろんつーくんが脱いだ服。きっと帰ってきたら、もう大変な出来事いっぱいでぼくの話なんて忘れちゃってるんだよ。
「つっくんは仕方ない子よね。やっぱり男の子よ」ってお母さんも苦笑してた。
怪我をして帰ってくる度にぼくは怖いのに、つーくんは知らないんだ。

ぼくだってせめて関わらせてくれたっていいのに!
お母さんとぼくを巻き込まないことに関してはつーくんもリボちゃんも、みんなみんなみーんな徹底してるから嫌になっちゃう。
いいじゃない、ぼくだってボンゴレの子どもなんだよう?
たまには、一緒にいさせてくれたって、いいじゃないか。


「ばーか、つーくんのばーか……」


また、ぐちゃぐちゃ。誰がきみの破れたシャツとか元通りにしてると思ってるの。一針一針、怪我をしないように願いをこめてるの誰だと思ってるんだよう。
いつの世も、男の子ってこういうものなの?お母さんも、破れたお父さんの服を黙って直しておく。気づいているのかいないのか、お母さんは笑顔のままでいるからわかんない。
つーくんは初代さまに似てるっていうけれど、こういうとこも似てたのかな。奥さんはやっぱり苦労してたのかな――?


「………ん……ぅ……」


……ああ、ちょっと寝ちゃったみたい。むかしのゆめなんて見ちゃった。
せっかく預かっていた望ちゃんの服、くしゃくしゃになっていない、かな……?

まだ、縫術はできない。仰向けの状態でもう一度本の表紙を睨みつける。読んだけど抽象的すぎて、理解に苦しむ。
こちらを気にすることなく、窓のそとの蝶を追いかける薄情なケモノたちとは変わって、心配そうにこちらを見上げてくる子ライオン、クーピーを見てなにかを閃いた気がした。


「形態、変化……」


そうだ、つーくんたちのアニマルは皆なにかしらの形に姿を変えていた。ぼくはクーピーはスパナだと勝手に思っていたけれど、ナッツだって姿はふたつあった。本当は違うんじゃないの?
クーピーは、ずっとサインを出していたんじゃない?自分がそうだって。気づかなかっただけじゃないの?
やってみなくちゃ、わかんない。クーピーに声をかけて向き直る。泣き虫だけど、強い目。いつの間にやら。意識をして、クーピーに炎を込めた。――光が、はねる。


「う、わ………!?」


眩しくて眩しくて、思わず目を閉じてしまって。やっとあけたあとに見えたのは。ほかのは違う、明らかに大きな針と、糸巻き。くるくると絡まっていく糸は、その名前みたいにたくさんの色を含んでいた。


「やっぱり、やっぱりそうだった!これが、ぼくのパートナーのちからだったんだ……!」


つーくんたちのはこが、初代さまたちの武器やらを表していたとするならば。これはきっと初代さまの奥さんだとか、心配して待たされていた女の人の思いなんじゃないだろうか。―――まったく、いつになっても男の子って仕方ないものだよね。
にひひ、と口角をあげてさっそく針をてにとった。桃の花、がリクエストだったっけね。
意識をこめれば、勝手に動いてくれる。時間にしたらそれこそ数秒。そこには完成された刺繍と、なにより力がこもっていた。これが、縫術のちからというものだろうか?


《…完成したか、見事だ》
「つきひ」
《桃の花は回復補助の意味をもつんだ》
「……なんだかまだ実感わかないんだけどね。これがクーピーなんだって」
《自分たちの力を信じろ、ミオ。いくら力があってもそれが強くても、お前が信じなくてはなんの意味もなさないからな》

珍しくツキヒが鼻をすりよせてきたから、それ以上はいわなかったけれど、よくやったって言われてるみたいだった。


《まだ信じられないか?》
「ううん、もう大丈夫。クーピーもお疲れさま」
「…………ガウ…」
「疲れたみたい?」
《そうだな。炎をたくさんわけてやれ。そして甘やかせばいい》
「ほんっと、めずらしい。というよりツキヒはクーピーに甘いんだねえ」


ハルヒよりもツキヒのほうが子ライオンの面倒を見ているようだから愛着もあるのかもしれない。ツキヒたちに性別はないっていうけれど、本当はメスだったりするんだろうか。それとも妹をかわいがる、お兄ちゃん?


《あとはふたりでもっと修行でもすれば、確実だろう。お前たちの頑張りは知っているからな。断言しよう、すぐできるようになる》
「ツキヒは白沢っていう物知りさんだもんねえ。わかった、信じる」


笑えば、うすく月氷も笑った雰囲気。もちろん獣だからあんまりわかんないけど、それでも前よりわかるようになってきたんだよ。ちなみにハルヒはとてもわかりやすい。子どもというか表情ゆたかというか。


「あ、ねえ。この力はさあ、もしもぼくがもとの世界に戻っても、役にたつよね?」
《多分その書物のちからとは似て異なるもの。もともとがあちらのものであるし、かなり便利なちからだからな》
「そっかあー。じゃあよかった」
《やはりあちらが大切か?》
「、うん」


否定なんかできない。
やっぱりゆめにみるぐらいだから、まだあいたいと思ってる。帰りたいと叫んでいる

「知ってると思うけど、ぼくは打算的なの。こっちで強くなればあっちでも巻き込んでくれるかなあって。けっして純粋に、平和だけを追い求めることはできないよ」


それができる劉備さまたちがちょっとうらやましいし、すごいと思う。


《人間はみな、打算的でしたたかだ。そうでなければ乱世なんぞ、すぐ死んでしまうぞ》
「そうかなあ?」
《そうだ。だからミオは、存分に好きなように思いながら戦っていけばいいんだ》
「……そうかな?…うん、そうだよね」
《それでいい》
「うん」



帰ったら、つーくんのスーツでもつくってあげようか。ミオちゃん特製、最強スーツってね。
だからそれまでにもっと腕を磨いて、平和を取り戻せるぐらいになるから。

ツキヒから手を離して、ぎゅっともう一度望ちゃんの服を握ったら、桃の香りがした気がした。


(怪我なんて、許さないんだからね)









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